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第7話:バルトロメオ7

 修道院長は賛美歌とともに、ゆったりとした歩みで壇上へ向かっていく。  彼はまだ四十代半ばらしいが、造りの大きな体躯から放たれる堂々たるオーラには、年齢以上の威厳と貫禄があった。  修道院長が壇上から修道士たちを見下ろし、そしてミサが始まる。  いつもと変わらない風景。けれども修道士たちの肩の向こうに見えるペティエ神父の包帯が、消せない違和感となって景色に染みを作っていた。 「父と子と、精霊の御名によって」  修道院長の言葉に続き、アーメンの声が響く。  今は雑念を追い払い、神に向き合うべき時間だ。それなのに……。  得体の知れないものへの不安が、ユァンの心を乱して放さなかった。 (やっぱり昨日のこと、誰かに言った方がいいのかもしれない……)  結局最後まで祈りに集中できないまま、ユァンは礼拝堂の外へ出る。  すると外回廊の少し先を歩く、ペティエ神父の後ろ姿が目に映った。  追いかけていって昨日のことを聞くべきなのか?  勇気が出ないまま、どうしようかと思案していた時。 「いかがなさったのですか、その頭は」  ユァンより先に別の修道士が神父に声をかけた。  彼は普段からペティエ神父と親しく話している姿をよく見かける。端から見れば気の置けない仲にも見えた。  ところが。話しかけられたペティエ神父はびくりと肩を揺らすと、「なんでもない」と言い捨て、歩く速度を速めてしまった。 「しかしその包帯は……。お怪我をなすったのでは?」  若い修道士が追いすがる。 「だから、なんでもないと言っている! くだらないことに興味を持つな」 「……ですが、皆もきっと心配しております。我らが敬愛するペティエ神父に、いったい何があったのかと」  ユァンのように倒れた姿を見なくても、やはりあの包帯は気になるらしい。  そんな彼にペティエ神父は足を止め、顔を寄せて言った。 「よいか! 神に仕える身として、いらぬ好奇心は罪悪だぞ?」  沈黙は金、おしゃべりや好奇心は眉をひそめるべきものだ。  そうした価値観は勤勉を重んじるこの修道院に、また教会全体にも浸透している。 『好奇心は罪悪』とまで言われ、修道士の彼もさすがに渋い顔をして口を閉じた。心配して聞いただけだろうに、少し気の毒だ。  しかし、今のペティエ神父の口ぶりはいったいどういうことなんだろうか。  普段の神父を見ると気さくなおしゃべりはわりと好きそうなのに、いま頭の包帯のことについては話すことを拒絶していた。  それには何か、理由がありそうだ。 (もしかして、殴った人のことを庇ってる?)

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