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第8話:バルトロメオ8
神は、悔い改めたものを許したまう。
神父は口をつぐんでいることで、自分に怪我させた者――おそらく鍬を持っていた人物――の改心を促そうとしているのかもしれない。
だとしたらあれは修道院内部の人間だったんだろうか。
そう考え思い返してみても、ユァンにはあれが誰だか分からなかった。
あそこは暗がりで顔がよく見えなかったし、いきなり攻撃に出られて気が動転していたこともある。
ここの修道服と同じような、暗い色の服を身につけていた気はするが……。
どうにも違和感があった。ペティエ神父は今、感情的になってみえる。
それが他人のことより、自分自身を守ろうとしている姿のように感じられて。
(あっ……)
物思いにふけりつつ後ろを歩いていると、振り返ったペティエ神父と目が合ってしまった。
ユァンは慌てて会釈する。好奇心が罪悪なら、立ち聞きも当然罪悪だ。
しかし神父は何も言わず、そのまま事務棟の方へ行ってしまった。
ユァンもそこで反対側に道を折れ、宿舎へと戻る。
いろいろと気になるけれど、ペティエ神父本人があの様子ならユァンが口を挟むべきことは何もない。なんだか肩の荷が下りたような、それでいて不安の残る幕引きだった。
それにしても……。
顔にぶつかった、熱気を帯びた厚い胸板。回廊に響いた低い声、汗の匂い。
どうしてだろう、思い返すとひどく心を乱される。
鍬で襲われかけた恐怖より、あの胸に抱かれた感触の方が鮮烈な印象として残っているのが不思議だった。
(本当に、あの人は誰なんだろう……)
修道士たちの祈りの場である修道院は、一般には解放されていない。
あの人がどこから入り込んできたのか分からないけれど……いや、いらぬ好奇心は罪悪、か。
ユァンはひとり、頬を叩いて息をつく。
そんな時、同じ修道士のルカが後ろから声をかけてきた。
「いたいた、ユァン。お前、修道院長に呼ばれてるぞ」
ルカとは宿舎の部屋が同室で、人と話すのが苦手なユァンも、彼とは話せるようになっていた。
ユァンは振り返り、そばかすのある彼の顔を見つめる。
ルカは小柄で年より子供っぽく見えるが、その切れ長の目には物怖じしない強さがある。
「司教さまが僕を?」
聞き返したが、ユァンには呼ばれる心当たりがなかった。
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