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第14話:バルトロメオ14
「ちょ……バルトロメオさん! こういうのは、ここでは持ち込み禁止……」
慌てて周りを見るが、そばでは雀がこぼれた小麦をついばんでいるだけだった。他の修道士たちは修道院内のそれぞれの仕事場に行っている時間帯で。外でフラフラしている人間は自分たち以外にはいなさそうだ。
(ふう……)
自分が悪いことをしているみたいで、ユァンはなんだかドキドキしてしまった。
「持ち込み禁止なのは知っている。今朝受付みたいなところで、持ち物はみんな取り上げられたからな」
バルトロメオが続ける。
「じゃあ、どうして……」
どうしてこれがここにあるのか? ユァンのその疑問に、彼はニヤリと悪い笑顔で答えた。
「そんなのはテキトーにごまかせる」
「テキトー」に「ごまかせる」? とても神に仕える人間の言葉とは思えない。法王庁から来た人なら教会のエリートだろうに、この人は。
呆れているユァンを見て、バルトロメオはさもおかしそうに笑った。
「アンタ、無口なわりに、何もかも顔に出るんだな」
「そんな……ことは……えーと……」
まだ心臓の音が騒がしかった。ユァンはバルトロメオから目を逸らし、いつもの山羊小屋の方へ足を向ける。
「バルトロメオさん、この辺はだいたい見たので、山羊たちを連れて散歩に行きましょう」
「分かった。けどさっきも言った通り、俺のことは『バルト』って呼んでくれ」
「はい……バルト」
「おーい、こっち向いて言えよー」
恥ずかしいのに、後ろからそでを引いて笑われた。
*
山羊小屋から十数頭の山羊を連れ、数百メートル先の牧草地まで足を伸ばす。道の両脇は雑木林だ。
「ここまで来ると、本当に草と木しか見えないな」
バルトロメオが顎を持ち上げ、木々の向こうに見える高い空へ視線を向けた。
「手入れが行き届かなくて、この辺は雑草が生え放題ですからね。けど、山羊たちはそれぞれ好みがあるので、こういうのを好んで食べる子もいます。ほら、おいで?」
茂みの桑に夢中で集団から遅れている一頭を、ユァンが優しく呼んだ。出産したばかりのユキとその子供たちは、今日は囲いの中で留守番している。
「そうだ、びわの木」
びわの木を見つけて枝を長めに折り取ると、バルトロメオが不思議そうに聞いてきた。
「それはどうするんだ?」
「ユキの好物なので、お土産に持って帰ります」
「お土産……」
不思議そうな顔のまま、オウム返しにくり返される。
「帰りでもいいような気がするが」
「そう言われるとそうですが……ほら、山羊たちは好き勝手なところに行くので、帰りに同じ道を通れるかどうか」
最後尾の一頭を構っているうちに、先頭を行く数頭が道から外れ、茂みを突っ切ろうとしていた。
「仕方ない、ルート変更です」
取ったばかりのびわの枝で下草をよけながら、ユァンも茂みの中へ分け入る。山羊たちはするすると茂みに入っていくが、人間の背丈だと、前から横から伸びる木の枝が邪魔だ。
(僕より大きいバルトさんはもっと歩きにくいよね?)
彼のためにも枝をぐいぐい押して道を広げて進んだけれど……。
ようやく広い場所に出て振り返って見ると、バルトロメオのドレッドヘアに銀色の糸が絡みついていた。
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