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第16話:バルトロメオ16
「気持ちいいな、よく晴れていて」
「はい、とっても」
仰向けに横たわるバルトロメオの隣で、ユァンはひざを抱く。
「晴れた日は毎日ここへ?」
「あ……こっちじゃなくて、西側の牧草地に行くこともあります。草の生え具合を見て。あと、頼まれて近所のお宅のお庭へお邪魔したり。山羊は食べることで、草むしりのお手伝いをしてくれますから」
「なるほど。食べることが手伝いになるなら万々歳だな!」
まぶしげに空へ片手をかざし、バルトロメオが笑った。
「それがそうでもなくて。山羊にだって好みがあります。仕方なくって顔して食べますよ」
ユァンが顔を歪めてみせると、バルトロメオはパチパチとまばたきをする。
「山羊が『仕方なく』って顔をするのか?」
「しますよ」
「本当なのか?」
こっちは真面目に答えているのに、彼は意味ありげに片方の口角だけを持ち上げてみせる。
(これ、信じてないよね? ひどいなあ)
ユァンのそんな考えが顔に出ていたのか、客人はこらえきれないように肩を揺らして笑った。
「なんですか」
「面白いな、ユァンは!」
「僕なんて、何も面白くないでしょうに」
だって面白いなんてそんなこと、誰からも言われたことがない。
「人を面白がるなんて、神に仕える者としてはよろしくないな」
「そういうことは言ってませんけど……」
自分で『よろしくない』と言いながら、バルトロメオはまだ口元に笑いをたたえていた。そもそも教会では、笑うこと自体あまりよしとしていないのに。
(本当にこの人は)
ユァンまで思わず笑ってしまった。
それからユァンが立ってまた山羊の数を数えていると、横から音楽が聞こえてくる。
(……えっ?)
見るとバルトロメオが、寝たまま携帯端末をいじっていた。
「あの、それ……」
「ん?」
「見つかったら取り上げられちゃいますよ? 今あなた、見習い修道士なんですから」
「ここならバレない」
彼は音楽に乗って、指揮棒を振るように人差し指を回し始める。
確かにここにいるのは自分たちだけだし、さすがに建物のあるエリアまで音楽が聞こえることはないだろう。だからといって、バレなければいいって考えもどうかとは思うけれど。
ただそれは、彼がそれを持っていると知って、黙っているユァン自身も同罪だった。
ユァンはそっと胸のロザリオを握る。
(神よ。彼のささやかな楽しみと、優柔不断な僕をお許しください)
祈りの成果か知らないが、牧草地に流れる音楽を邪魔するものはない。
山羊たちが草を食みながら、時折こちらに耳を向けていた。ユァンも普段なら開く本を開かず、山羊たちに目を向けている。耳は彼らと同じく、聞き慣れない音楽を追っていた。
賛美歌とは違う歌声のトーンと電子的なミュージックが、なんだか気持ちをソワソワさせる。心地よくはないけれど、嫌ではない。不思議な感じがした。
寝そべって音楽を聴いているバルトロメオを見ると、閉じていた彼のまぶたが持ち上がった。
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