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第17話:バルトロメオ17

「そうだ、ユァン。アンタは昨日のことが気にならないのか?」 「昨日……」  礼拝堂の外回廊でのことだということは理解する。 「普通なら話題にするだろう」  もちろん気になっていた。けれど話題にしてはいけない気もしていた。 「あそこで何があったんでしょうか? ペティエ神父は……あ、倒れていた人のことです。あんなひどいい怪我をしていたのに、どうして何も言わないんでしょう。怪我させた人を(かば)っているんでしょうか? だとしたら僕は、見たことを黙っているべきなんでしょうか」  胸に押し込めていた疑問が、ぽつぽつと口からこぼれ出る。  バルトロメオが静かに上半身を起こした。 「アンタは真面目だな」 「え……?」 「気になったら聞く、人の思惑なんか関係ない。それでもいいじゃないか」 「…………」 「いや、実際難しいか。組織の人間だもんな」  (なぐさ)めるように明るく言われた。 (ううん、組織云々(うんぬん)より、僕が臆病なだけだ……)  ユァンの視線を受け、バルトロメオがまた口を開く。 「ユァンはあの、鍬を持っていたやつの顔を見たのか?」  首を横に振った。 「そうか」 「バルトさんは?」 「いや、あいつストールか何かで顔を隠していただろう。それにフードも被っていたから。それでも、ここに住むアンタなら分かるかもしれないと思ったが」 「……すみません」  自分の所属する修道院で起きたことなのに。あの時自分がちゃんと見ていればと、ユァンは今さらながら歯がゆくなる。 「アンタが謝ることはないだろう」 「けど僕は、悲鳴を聞いて助けに行って、結局何もできずにあなたに助けられただけだ」  あの時バルトロメオが助けなければ、ユァンはどうなっていたのか分からない。ペティエ神父はあの通り包帯を巻いて元気に歩いていたが、打ち所が悪ければ命を落としてもおかしくなかったはずだ。 「すみません、本当に……お手間だけかけて」 「いや、それはいいんだが……」   バルトロメオがぽんぽんとユァンの肩を叩いた。 「けどアンタ、相手の顔見てないなら、よっぽど警戒した方がいい」 「……どういうことですか?」 「だってそうだろう。あれがここの人間なら、アンタに顔を見られたと思って今頃(おび)えてる。事を荒立てられないうちにって、本気でアンタを襲おうとするかもしれない」 「……そんな」  ユァンにとっては、思いも寄らないことだった。

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