22 / 116

第22話:バルトロメオ22

「バルトさん、誰か来た……!」  彼と自分の耳からイヤフォンを引き抜き、ユァンはそれをバルトロメオのポケットに押し込む。  その時彼の視線はテーブルに置かれたポークジャーキーの皿に向いていた。ベッドと衣装ケースくらいしかない殺風景な部屋に、それを隠せる場所はない。 「どうしよう?」 「俺に任せろ」  あせるユァンを落ち着かせるように、バルトロメオが肩を叩く。  そしてゆったりとした足音がドアの前で止まった時、彼はポークジャーキーの皿を手に、窓から屋根の上へ飛び出していた。  この部屋は三階だ。さすがに屋根から滑り落ちるとは思わないけれど、心配にはなる。 「ユァン、いいかな?」  ドアの外から聞こえる声は、シプリアーノ司教のものだった。 「どうぞ」  口の中にあったポークジャーキーを無理やり飲み込みドアを開けると、司教がゆっくりと部屋を見回した。 「彼は?」 「ブラザー・バルトロメオでしたらいま外に」  嘘はついていない、とユァンは胸の中で確認する。 「あの方にご用でしたか?」 「まあね、だがいないなら仕方ない。ああ、ユァン……」  ユァンを見つめ、司教はもの言いたげな顔をした。 (もしかして、ポークジャーキーの匂いがしてる!?)  ユァンは息を止める。 「ユァンは大丈夫なのか? 困っていないかね?」 「え……?」  気づかわしげに聞かれている理由が分からなかった。司教が目尻に笑いしわを作り、声をひそめて教える。 「ブラザー・バルトロメオのことだ。聞くところによると、彼は結構な問題児らしくてね」 「ああ……」  確かに問題がないとは言えない。けれどもどんな顔をしていいか分からずに、ユァンは曖昧に首をかしげた。 「何かあったのか?」 「いえ。ただ少し、変わった人だなと」  ユァンがそれだけ言うと、司教はひとつ頷き、話しだす。 「彼は法王に近い枢機卿(すうききょう)の甥でね。教会内で、彼の自由な振る舞いを(いさ)められる人間はあまりいないらしい。将来は法王の側近にも、枢機卿にもなり得る人間だからね」 「そうだったんですか……」 バルトロメオのあの聖職者らしからぬ人柄は、逆に教会中枢部で育まれたものだということにユァンは驚く。だが確かに、そんな家柄にでも生まれなければ、あの人が自ら教会に所属するとも思えない。だからこそ司教の話は納得のいくものだった。

ともだちにシェアしよう!