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第23話:バルトロメオ23
司教は続ける。
「そんな人間を、私も簡単には拒めなかった。それでクリスピアヌスに受け入れ、希望通りお前の下につけたわけだが……。視察という名目で、実際のところ彼が何をしようとしているのか分からない。観光気分で来ているだけなら、それはそれで構わないが……」
あの人は何か目的があってここにいる。一見すると自由気ままな人だけれど、何かうちに秘めたものがあることに、ユァンはうすうす気づいていた。
これといった理由があるわけじゃない。単なる直感だ。もしかしたらあの自由気ままな振る舞いも、一種のカムフラージュなのかもしれなかった。
それからユァンの思考は窓の外へ向かう。今この話を、バルトロメオ本人はそこで聞いているんだろうか。司教は何も知らずに話しているが、彼がそこにいることを告げないことは、自分は司教を裏切っていることになるんだろうか。
「……ともかくだ、ユァン。何かあれば言うように。自分一人で解決しようなどと思ってはいけないよ」
司教はそう念を押し、部屋を出ていった。
*
山羊小屋の敷き藁を、熊手を使ってかき集め、ユァンは汗を拭う。
――何かあれば言うように。自分一人で解決しようとしてはいけない。
あの時シプリアーノ司教は、ユァンの肩を強くつかんだ。
つかまれた感触がひと晩経ってもそこに残っている気がした。ユァンは不快感を振り切るように、何度か肩を回した。
司教はユァンを信用していないんだろうか。信用していればあんな触れ方、あんな念の押し方をしない気がする。
「どうした? ユァン」
振り返ると、新しい敷き藁を倉庫から担いできたバルトロメオがそれを下ろし、心配そうにこちらを見た。
「あ……」
まだ何も言わないうちに彼が言い当ててくる。
「昨日の夜のことか?」
「……ええ。聞こえていたんでしょう? 司教のお話が」
「まあな。ユァンは俺と司教の間で、板挟みになるのが嫌なのか」
言ってからバルトロメオは「悪い」と短く付け加えた。その顔は悪いと思っているけれど、致し方ないことだった、と言っているようにも聞こえる。
「こうなることが分かっていて、あなたは僕を指名したんでしょうに」
大きく熊手を使うユァンのそばで、バルトロメオは掻きにくそうに頭の後ろを掻いている。そんな彼を見て、ユァンはここ数日ずっと聞けずにいた疑問を口にした。
「どうして僕を指名したんですか?」
「どうしてって、それはだな」
今度はバルトロメオの方が、考え込むような顔になる。
「見るからに美少年だったから」
「…………は?」
思わぬ答えに、反応が遅れた。
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