24 / 116

第24話:バルトロメオ24

「び、しょう……ねん……僕が? そんなわけ! 髪も目の色もヘンなのに……それにこれでもハタチ過ぎていて」  この国の人々の多くは黒髪に黒い瞳だ。そんな中、明るい髪色と瞳を持つユァンは、奇妙なものでも見るように人から見られることが多かった。容姿はユァンのコンプレックスだ。  それにハタチすぎて美少年はない気がする。 「年齢はともかく。西側出身の俺から見たら、アンタは正統派の美少年だぞ? この国じゃ珍しい容姿なんだろうが」  そこまで言って、バルトロメオは気まずそうに咳払いをする。 「だからといって、そういう下心で近づいたんじゃない。わけあってのことだ」 (わけあって? そのワケって……)  彼に事情があることは分かっていたからこそ、ユァンは込み入った話を聞いていいものかどうか迷った。  外では囲いに放った山羊たちが、いつものように日光浴をしている。山羊小屋の中では、飼葉の粉が窓からの光に白く照らされながら舞っていた。建物から少し離れたこの場所に、人が近づいてくる気配はない。  集めた敷き藁の山をまたいできて、バルトロメオが口を開いた。 「すでにアンタを巻き込んでるんだ。この際だから、アンタにだけは俺の目的を言っておこう。ここの修道院長もうすうす勘づいているみたいだし……」  シプリアーノ司教も彼の真意を知りたがっていた。それをバルトロメオはユァンにだけ打ち明けようというのか。昼間の静かな山羊小屋に、緊張が走った。 「俺は、ある内偵捜査のためにここにいる」 「内偵捜査? じゃあ、視察っていうのは口実で……」  内偵捜査が目的なら、彼がわざわざ身分を隠す理由としても頷ける。 「いったい何を……あなたは調べているんですか」  また少しの沈黙があり、バルトロメオが口を開いた。 「教会本部宛てに匿名の投書があった。この修道院で、天使に対する陵辱(りょうじょく)が行われている」 (天使に対する、陵辱……?)  ユァンは困惑しながらバルトロメオを見つめた。  さすがのユァンも、天使が実存世界と違う次元のものだということは分かっている。宗教的には存在することになっているが、それは抽象的な意味でのことで、普通に手を触れられる存在ではない。  だったら〝天使に対する陵辱〟とはなんなのか。聖書の記述では、ソドムとゴモラで行われていたこと、つまりソドミーである。そしてその『ソドミー』を辞書で引くと、性器以外を使った性交、または男性同士の性交となっているはずだ。  ユァンはそれを頭の中で確認し、いま山羊たちがここにいなくてよかったと思った。山羊たちにそんな話は分からないだろうに。 「ソドミーは、我々の教義では禁じられています」  ユァンはか細い声で伝えた。バルトロメオが続ける。 「だとしても、それ自体はわりとどこででもあることだ。褒められたことじゃないが、俺はわざわざそれを調べにきたんじゃない。問題は……」  バルトロメオが一旦言葉を切り、空気が引き締まった。 「問題はそれが婉曲(えんきょく)的な意味でなく、本当に天使に対して行われているかもしれないということだ」 「天使……?」  やはり意味が分からずユァンは聞き返す。 「天使といったら子どもだろう。俺はそう踏んでいる」 「…………」  言っている意味がようやく理解できた。が、どう反応していいのか分からずに、すぐには言葉が出なかった。

ともだちにシェアしよう!