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第41話:教会の子供たち7

(めずら)しいな、この辺を人が通るなんて」  一緒に立ち上がったバルトロメオが、手で額にひさしを作りながらつぶやいた。 「この先に何かあるのか?」 「ううん、敷地の外へ続くゲートがあるだけ。街へ出るには遠回りだから、あまりそこは使われていないんだけど……あっ、でも」 「なんだ?」  バルトロメオの視線が、小道からユァンの方へ戻ってくる。 「養護院に行くなら近道だ」  養護院は修道院の付属施設で、赤ん坊から十五歳までの身寄りのない子供たちが暮らしている。ユァンは神学校に進学するため特例で、十八の年まで養護院に席を置くことになったのだが……。 「養護院と、ここの修道士たちとの関わりは?」  そう聞いてくるバルトロメオは、甘い恋人の顔ではなく捜査官の顔になっていた。 「敷地が分かれているから、そんなには……。修道士は、特別な用事がなければ外へ出ないことになっているし。ああ、でも、シプリアーノ司教とペティエ神父は、向こうでも役職を持っているから行き来しているはず……」  話ながらユァンは嫌な予感を覚える。ここでペティエ神父の名前が出ることで、バルトロメオの中にある、神父への疑いを強めてしまう気がした。 「いま向こうへいそいそと歩いていったのは、ペティエ神父の取り巻き連中だよな?」  彼の言う通りだった。 「何かあるんじゃないのか?」 「……何もないと思うけど……」  ユァンが言葉を(にご)しているうちに、バルトロメオは彼らを追って、小道の方へ駆けだしていってしまう。 「あっ、バルト!?」 「すぐ戻る!」  彼は足を止めずに、肩越しにちらりと振り返ってそう言った。ルカを問い詰めていた時のことを思い出すと、今回だって一悶着(ひともんちゃく)あってもおかしくない。  嫌な予感しかしないが、ユァンとしては山羊たちを置いて彼を追いかけるわけにもいかなかった。 「僕はどうしたら……」  ため息をつくと、そばへ来たユキが(なぐさ)めるように鼻先を擦りつけてくる。 「ユキ~……」  ユァンは地面にひざを突き、彼女の首を抱きしめた。

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