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第43話:教会の子供たち9
「で、ペティエ神父だ」
「あの人がどうしたの?」
司教の権力を笠に着て、悪事を働いているとでも言いだすんだろうか。ユァンはなんともいえない不安を感じながら、話の続きを待った。
バルトロメオが壁の暦をちらりと見た。
「ペティエ神父が個人的に、養護院の子供たちを招いてパーティを開くらしい」
「なにそれ……?」
意外なところに話が飛んでしまって戸惑う。
「一応名目としては、復活祭を祝うパーティだそうだ」
そういわれてみると復活祭が近かった。教会ではちょっとした催しをするが、それは市民に向けてのものであって、修道院内では礼拝が普段と違うものになったり、食事のメニューが変わったりする程度だった。
つまり公式にパーティと呼ぶものは行われていない。
「パーティって何をするの?」
ユァンが聞くとバルトロメオが肩をすくめる。
「年長の子供たちを呼んで、仮装パーティをするらしい。今日彼らはその件で、神父からの招待状を持ってきたそうだ」
彼らというのは昼間養護院へ向かっていた、ペティエ神父の取り巻きたちだろう。
「それでどうなったの?」
「まあ、善意の誘いは断れないよな。けどシスターたちも心配していたよ。修道院内に呼ばれると目が届かないから、子供たちが粗相を働くんじゃないかって」
「ここは女人禁制だからね。シスターたちは入れない」
「そういうことだ」
「けど年長の子たちが、パーティで悪さをするとは思えないけど……」
ユァンが不思議に思って口を挟むと、バルトロメオが渋い表情で頷いた。
「だよな、あれは逆の意味だ」
「逆の意味って?」
「悪さをするのは神父たちの方」
「……えっ、まさか」
にわかには信じられずに、ユァンは視線をさまよわせる。
けれど告解室に懺悔しに来たカップルはペティエ神父を疑っていて、養護院のシスターからも彼は疑われているということになる。火のないところに煙は立たないというから、ユァンの知らないところで、神父に関する噂や疑惑は前からあったんだろう。彼にいったい何があるというのか……。
考え込んでいると、バルトロメオが聞いてきた。
「ユァンは養護院時代、神父の主催するパーティに出たことはなかったのか?」
「ううん、それはないよ。ペティエ神父が養護院の相談役になったのは、つい最近のことだから」
「なんで神父が相談役になったんだ?」
彼は重ねて聞いてくる。
「前任者が、お年を召されて退任されて。それでペティエ神父が、自ら志願なさったそうだけど……」
「なんだそれ、ますます怪しいじゃないか」
「怪しいって、そんな……」
前のめりになるバルトロメオを見て、ユァンは戸惑い首を横に振った。
神父はただ人好き、子供好きなだけだ。そう思う一方で、ユァンの中にも〝疑念〟という名の小さな火種は飛び火していた。こんなもの、火種のまま指先で消してしまいたい。何もなかったと笑いたい。いや、そうでなくてはならないのだ。ここは祈りと安らぎの修道院なのだから……。
そんな思いから、ユァンはある決断をする。
「バルトがそこまで言うなら、そのパーティ、僕が覗 きに行ってくるよ」
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