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第44話:教会の子供たち10

「覗く?」  バルトロメオが眉間にしわを寄せた。 「養護院の制服は持ってるし、仮装パーティなら案外潜り込めるかも?」  今までの臆病なユァンなら、こんなことは考えもしなかったと思う。けれどどうしてだろう。バルトロメオと一緒に過ごした時間が、以前よりユァンを大胆にしていた。  ベッドの下の衣装ケースから(ひざ)丈のズボンを出してみせると、バルトロメオの目が点になる。 「ちょっと待て! それを着る気なのか」 「入るよ。昔より身長は伸びたけど、腰回りはそんなに変わってないから」 「そういうことじゃなくてだな……っておい、ユァン!?」  二人部屋のスペースを区切るカーテンを引いて着替えていくと、バルトロメオが片手で顔を覆った。 「……なに? そんなに変?」 「逆だ逆! はあ、やっぱり目の毒だな……予想はしていたが」  顔を覆う手のひらの向こうで、バルトロメオが深いため息をつく。  養護院の制服は白いワイシャツにベージュの吊りズボン。本来十五歳までの少年が着るものだから、ズボン丈が短いのはご愛嬌だ。あとは季節に合わせ、これにセーターやブレザーを重ねる。 「この服のどこが気になるの?」  バルトロメオの座るベッドの縁まで近づいていってみると、彼の手がユァンの太腿(ふともも)を滑り下り、ひざの裏側を撫でてきた。 「服っていうかアンタだ。こんなきれいな脚見せて歩いたら、周りが変な気を起こすだろ……」 「服じゃなくて、脚?」  フェティズム的な何かだろうか。バルトロメオは何も答えない。 「あ……それとも、子供っぽい格好が好き?」 「それは断じて違う」  ユァンのひざ頭から視線を上げ、彼は怒ったような顔をしてみせた。  座っている彼とほぼ同じ高さで目線が合い、ユァンはドキリとしてしまう。 「好きになった相手がこんなに子供だと、さすがに不安になるんだよ。自分が間違いを起こしてるんじゃないかって疑いたくなる……」  言いながら腰を引き寄せられ、彼のひざに(また)がる形で乗せられた。 「わっ」  ユァンは慌ててバルトロメオの肩につかまる。その拍子に顎が彼の肩口に乗った。背中と首の後ろへ回ってきた腕に、ぎゅっと深く抱きしめられる。 「え、と……バルト?」  耳の後ろで彼がため息をついた。 「少しこのまま、俺の視界から外れてろ」 (そのためにこの姿勢?)  抱きしめられるのには慣れていなくてユァンは戸惑う。彼の体温に包まれて、触れ合う胸の鼓動が速かった。  しばらくそうしていると、ズボンのすそが上がってむき出しになっていた太腿を、バルトロメオの指が撫でていく。 「……バルト、やっぱり脚好きでしょ?」 「というより、もっと内側に触れたくなる」  耳の後ろで聞く素直な言葉に、ユァンも甘美なため息が出てしまった。そういうことが気持ちいいということを、このいけない先輩に教え込まれたばかりだ。 「ここは修道院です」  自分を(いさ)めるために言って、バルトロメオのひざから下りる。 「ユァン」  甘い声で名前を呼ぶ、バルトロメオのその顔は笑っていた。

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