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第45話:教会の子供たち11

「そうだよな、当分は自粛(じしゅく)する」 「当分って……」  次があるのかと思うと、彼に非難の目を向けながらも、ユァンは内心嬉しくなってしまう。しかし自分たちは修道士だ。神さまより恋に(おぼ)れるなんて、やっぱりいけない。 「仕事を忘れるなって、今朝、告解担当の神父様が言ってたよ」  そのことを伝えると、バルトロメオの照れ笑いが苦笑いに変わった。 「……そうだなあ」  それから彼は思案顔で腕を組み、黙り込んでしまう。 「どうしたの?」 「いや……」  彼はためらうように視線を揺らしたあと、ユァンに向き直った。 「正直に言う。仕事の俺はアンタをその格好で、パーティに行かせたがっている。その格好のアンタはどう見ても十五、六の少年にしか見えないし、あまりに可憐で、そのうえ気弱そうで……もともと子供に下心のあるやつなら、十中八九、食指が動くだろう」 「えっ……? つまり……」 「つまりアンタは……おとり捜査のおとりとして完璧だ」 (僕が、おとり?)  ユァンとしてはパーティを覗きに行くだけで、おとりにまでなることは考えていなかった。だがそう言われてみると、自分にその役目は適役な気がする。  一方で、神父を騙すようなことをしていいのかという思いもあった。だいたい自分に演技のようなことができるのかどうか。そこも自信がない。 「すまない、こんなことを言われても困るよな。俺自身、とんでもない考えだって思ってる」  バルトロメオが顔をしかめ、指でこめかみをトントンと叩いた。 「でもバルトははじめから、僕に協力してほしいって……」 「だからといって、捜査のために危険をおかさせるのは違うだろう」  彼の中でも相当な葛藤があるようだ。眉間のしわがそれを物語っている。  ユァンはもう一度バルトロメオに近寄っていき、ベッドの縁をつかんでいる彼の手に触れた。 「行ってくるよ、この格好でパーティに」 「だからユァン! アンタが捜査のために危険をおかすのは――」  彼はユァンの手をつかみ返し、(とが)めるような口調で言う。  ユァンはその言葉を押し留めた。 「違うよ。僕は自分自身のために行くんだ。僕が、ペティエ神父を信じたいから……。だから捜査のためでも、バルトのためでもない」 「それは真実じゃないよな?」  バルトロメオの視線がユァンを射抜く。 「アンタは利他的な人間だ。そんなアンタが無茶するなら、それは人のためだ」  否定できなかった。バルトロメオが〝利他的〟という言葉を、あまりいい意味で使っていないこともユァンには分かっていた。だからこそここは一旦、彼の指摘を認めざるを得ない。 「そうだね。いま言ったことは嘘じゃないけど……確かに、バルトの力になれたらって思いもあるよ。僕はここのみんなを疑いたくない。それと同時にバルトのことも信じたい。これ、矛盾してないよね?」  ユァンの問いかけに、バルトロメオは強い視線だけを返した。 「バルト、大丈夫だよ。きっと何も起きない。僕は神父様を信じてる」 「アンタのその信頼が、裏切られなければいいんだが……」  胸の不安をやり過ごすように、二人はお互いの手を握り合っていた。

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