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第48話:教会の子供たち14
「でも、僕はいま帰るわけには……」
ユァンの脳裏にはバルトロメオの顔がよぎる。
――つまりアンタは……おとり捜査のおとりとして完璧だ。
この少年の話をもっとよく聞きたい。けれど今パーティを抜け出してはわざわざここへ来た意味がなくなってしまう。
と、そこへ渦中 の人物、ペティエ神父が近づいてきた。
庭から上がってきた神父を見た途端、少年はびくりと肩を震わせ広間の入り口へ向かっていってしまう。
「えっ、きみ?」
呼び止めたけれど無駄だった。彼はさっきまで一人では帰りづらそうにしていたのに、今は脱兎のごとく去っていき、ドアの向こうへ消えてしまった。
ユァンは唖然として、閉じたドアを見つめる。
「どうしたね?」
後ろから来た神父がユァンの肩に手を触れた。
「あ……」
恐る恐る振り向く。
銀色の仮面が燭台 の灯りを映し、ゆらゆらと不気味な光を反射していた。
「友達は行ってしまったのかね?」
神父の声が聞いてくる。友達とはさっきの少年のことだろう。
「彼はシスターからご用を言いつかっていたのを思い出して……それで先に……」
彼が挨拶もなく帰っていったことを責められてはいけない。そんな思いから、ユァンはとっさに言い訳した。
「……そうか、まあいい」
銀仮面の向こうの目がすっと細められる。
「じゃあ、きみは一人か」
「え……?」
嫌な予感がして周りを見ると、いつの間にか広間に子供はいなくなっていた。
「おいで、私と一緒に花火をしよう」
神父に手を握られる。
(ど、どうしよう……二人で過ごしたら、さすがに正体に気づかれる!)
だからといって手を振りほどく勇気もユァンにはなかった。
対応に困っているうちに、神父に手を引かれて庭へ連れ出される。
春の夜、木々に囲まれた庭は暗く、まだ少し肌寒かった。遠くでパチパチと、手持ち花火の音がする。
庭木の向こうに見える花火の光が遠かった。子供たちが遊んでいるのとは別の方角の庭に出てきてしまったようだ。
「みんなのところへ行きましょう……」
ユァンは神父の注意を逸 らそうと、人の集まっている方へ行こうとする。ところが神父が手をつかんだまま放そうとしなかった。
「あの……?」
「それより私と話をしよう」
そのまま低い木の下に引き込まれる。入り組んだ枝に、匂い立つ赤い花がついていた。
「きみは、神を信じるかな?」
耳の後ろでペティエ神父の声がした。
「……はい、ブラザー……」
返事をすると、耳の後ろに笑うような吐息がかかる。
「こっちを向いて、仮面を取ってごらん」
ユァンは振り返ることができなかった。ここで仮面を取るわけにはいかない。
「どうした? 顔は見せたくないのか?」
養護院の制服を着ているユァンの肩の上に、ペティエ神父が顎を乗せてくる。仮面に覆われていない神父の口元が、ざらりとした感触とともにユァンの頬にぶつかった。
「では、きみが誰だか当ててあげよう」
「……!?」
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