55 / 116

第55話:教会の子供たち21

 腕と脚がお互いの体に絡みつき、口の中では舌先が絡み合う。  宿舎に戻り、髪と体を洗い流したあと。ユァンは自分のベッドではなく、向かい側にあるバルトロメオのベッドに連行されていた。  着るものは全部()がされているのに、体が熱い。さっきから熱のこもった布団と熱い胸板の間に挟まれて、ユァンはなすすべもなく(あえ)いでいる。  全裸で抱き合うバルトロメオの肉体は、まるで肉食動物のように優美で雄々しくて……。 (こんなの無理だ、逆らえない!)  ここが修道院だという事実も、神さまとの約束も、砂粒のように指の間からこぼれ落ちていってしまった。 「はぁっ、は……」  息継ぎのために唇を離す。すると彼の舌先はユァンの頬を伝い、耳の中を犯しにいった。  ぴちゃぴちゃと腰に響く音が、頭の中を埋め尽くす。 「あんっ、だめ」 「ユァン、他には?」  耳の裏まで舐め尽くし、バルトロメオが聞いてきた。 「俺に触られてないとこ、まだあるだろ」  汗ばんだ頭皮に歯を立てられる。 「んっ、わかんない、もう……全部ぐちゃぐちゃで……」  数時間前、神父に探られた後孔には、すでにバルトロメオの長い人差し指が埋め込まれていた。もう全部、彼に支配されている。神さまも悲しみも介入しない、リアルな皮膚感覚だけがそこにあった。 「暑いよ、バルト……息が苦しい」 「水飲むか?」  ベッドサイドに置かれていたコップの水を、口移しで与えられる。 「そしたらもう一度確認しよう」  水を受け止めきれずに濡れたユァンの唇を指で拭い、バルトロメオの体が離れた。彼の熱に覆われていた体が夜の空気にさらされるが、肌寒さを感じる時間はなかった。 「えっ、わ、待って!」  足の親指を口に含まれ、シーツの上で体が跳ねる。 「ユァン、声」  もう深夜を過ぎているが、大きな声を出せば隣室の修道士たちが起きてしまう。 「だって、バルトが……っ」 「そんな泣き顔で(にら)まれてもな。俺は必要に迫られてやってる」  足の指の間に、たっぷりと舌を這わせてから言われた。 「必要って何?」 「分かるだろ。アンタの体を隅々まで、俺のものにしておく必要性。頭の中まで全部舐め回せたらいいんだけどな、それは叶わないから」  かかとからひざの裏側まで舌を滑らせ、バルトロメオが白い歯を覗かせた。その野性的な微笑みに()きつけられる。  触れられなくても頭の中は、もうこの人でいっぱいだ。  そう思ってから、ユァンは後れて別の事実に気づく。 (頭の中までって……僕が嫌なことを考えなくて済むようにってこと?)  触れられていないはずの胸の内側が、じんじんと(しび)れた。 「バルト、もう……そこはいいから……」  彼に持ち上げられていたかかとを下ろし、両手を差し出してみせる。  バルトロメオの厚みのある上半身が、ユァンの腕の中に下りてきてくれた。 (ああ、僕はこの人が好きだ……)  ユァンは汗ばんだ彼の首筋に、自分の顔を押しつける。 「だったらどこに触れてほしい?」 「このまま。これが好き」 「ユァン……」  浮いていた背中が、またベッドに沈み込む。シーツと彼の体に挟まれて、ユァンは熱い幸せに浸った。 「ずっと、このままでいられたらいいのに……」  気持ちが高ぶっているせいで、幸せなのに泣きたくなってしまう。 「悪い、俺はアンタほど清らかじゃなくて」  頭の上にキスをして、バルトロメオが笑った。  彼は体をずらし、腰で割り込むようにしてユァンのひざを開かせる。そして熱い(たか)ぶりが、ユァンの脚の間にぶつかった。 「……っ、駄目だよこれは……」  欲望が欲望を刺激する。 「どうして? ここが修道院だからか?」  頭の芯に響く低い声。胸の鼓動が加速した。 「口の中の林檎を、呑み込まないなんてできないだろ」  想像して口の中に(つば)が溜まる。 「バルトのこれが林檎なの?」  聞くとぷはっと笑われた。 「違う、禁断の果実はアンタの方だ」 「僕……」 「そうだよ、恐ろしく甘い香りがする」  ユァンのひざの裏側を押し上げて、バルトロメオが腰を進めてくる。 「あっ、バルト……っ……」  熱い先端をそこに押しつけられると、ユァンもそれを呑み込みたい欲望に襲われた。

ともだちにシェアしよう!