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第57話:教会の子供たち23

 ――はぁ、はぁっ……助けて、助けてっ。  ふいに聞こえたそれは、子供の声のようだった。  暗い廊下の真ん中で、ユァンは足と、呼吸を止める。  ここは聖クリスピアヌス修道院の中心、本館だ。修道院内は関係者以外立ち入り禁止。ここで暮らす修道士たちは全員成人男性だから、夜中に子供の声が聞こえるはずはなかった。  ペティエ神父のパーティの時は例外的に養護院の子供の訪問が許されたが、彼らが一人残らず帰るのを、ユァンもこの目で確認している。  ――んっ、んんっ、やぁ、やだ……。  すすり泣くような声。本当に子供が泣いているのなら、行って助けなければならない。  けれど声はまるで暗い記憶の底で響いているようで……。どこから聞こえるのかも分からないし、それは現実のものではない気がした。 「……助けて、助けて」  ユァンは無意識に、口の中でくり返す。  足下でガタンと響く音がして、手に持っていたバケツを自分が落としたことに気づいた。  そうだ、乳搾り用のバケツをここの調理場に忘れてしまったのを思い出し、朝の搾乳(さくにゅう)のためにそれを取りに来たんだった。  バケツを拾い、現実に引き戻される。  今の声は本当になんだったのか。どこかの部屋のドアが開く音でも聞き間違ったのか。それにしてはやけにリアルで、具体的な声に聞こえた。  バケツの取っ手を強く握り、ユァンは宿舎の方へ早足で歩きだす。早く部屋に戻ってバルトロメオの顔が見たい。  こんな時間だ、きっと寝ていると思うけれど……。  それでも一番生きた心地がするのは、彼のぬくもりを感じられる場所だった。

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