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第63話:獅子と牝山羊6

 ユァンの服従の姿勢に安心したのか、司教は目だけでやわらかく微笑む。 「お前は自分の部屋に行っていなさい」 「え……?」 「彼と話がしたくて来ただけだ」  司教に言われ、ユァンはバルトロメオを振り向いた。彼は不愉快そうに髪を掻き上げている。  自分が怒られなくても、バルトロメオが司教からのお叱りを受けるかもしれない。ユァンとしてはそれが心配だったが……。 「大丈夫だから、ユァンは戻っていてくれ」  彼からもそう促され、ユァンは山羊の乳を溜めたバケツを持って山羊小屋をあとにした。  *  司教がバルトロメオと話しに来たのは、ペティエ神父の件なのか、それとも……。  宿舎の二人部屋でひとり、ユァンは昼間見た青年の顔を思い出していた。法王庁のローブを着た、白い陶器人形のような青年だ。  彼はおそらく司教の客人だが、バルトロメオをよく思っていないようだった。そのことで何かバルトロメオが困っていなければいいが……。  時計台の鐘が鳴り、就寝前の祈りの時間を告げた。時刻は十九時。三階にある部屋の窓からは、暗い夜空しか見えなかった。  バルトロメオが帰ってこない。それ自体はよくあることだ。だが今日に限っては不安要素が多すぎて、さすがに心配になる。 「バルト……」  彼が早く、そして無事に戻ってくるよう、ユァンは胸に十字を切って祈った。  そんな時、ノックが聞こえて外側から部屋のドアが開けられた。 「ユァン、真面目にお祈りか。相変わらずだな」  ためらいなく部屋に入ってきたのは、以前同室だったルカだった。礼拝にはきちんと出るのに、部屋での祈りはだいたいサボる。それがルカだ。  そばかすを散らしたふっくらした顔は、以前と変わらず健康そうだった。 「どうしたの? ルカが来るなんて珍しい」  ルカはバルトロメオにこの部屋を譲って以来、ここへは立ち寄っていなかった。理由はまあ分かりやすくて、バルトロメオのことが苦手だからだ。  直接的な原因は捜査目的で因縁をつけられたことだったが、人に構いたがるバルトロメオと、人に煩わされたくないルカとではそもそも性格の相性が悪かった。 「寮長に言われて、あいつの荷物を取りに来たんだよ」  ルカはさっそく、バルトロメオのベッドの周りにある荷物を検分し始めた。 「えっ、荷物を取りにって、どうして?」  ユァンには話が読めない。 「聞いてないのか? 修道院長が激怒して、宿舎の部屋割りを変えろって、寮長に言ってきたんだと」 「それ、僕のせい?」  ユァンとしては心当たりがありすぎた。シプリアーノ司教が怒っていたなら、きっと山羊小屋でキスをしていた件だ。 「お前何したんだ?」 「あ~、それは聞いてないんだ……」  ルカに見つめられ、ユァンは気まずい思いで目を逸らした。

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