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第65話:獅子と牝山羊8

 翌日。朝の礼拝でも食堂でも、ユァンがバルトロメオを見かけることはなかった。いつものようにふらっと山羊小屋に来てくれるかとも思ったが、そんなこともなく……。  さすがにおかしい。ただ部屋割りが変わっただけでなく、彼は何か困難な状況に置かれているのではないか。そう考えるのが自然に思えてくる。  それでユァンはその日の夕食を犠牲にし、バルトロメオを探しに向かった。  だが百ヘクタールもある敷地の中で、一人の人間を見つけ出すのは難しい。そもそも、彼がいま修道院内にいるのかどうかも定かでなかった。 (どうしよう……)  いろいろな部屋や倉庫も探し歩き、たどり着いたのはシプリアーノ司教の執務室の前だった。このドアをノックするのは怖いけれど……。  やはり手がかりがあるならここなのだ。司教ならバルトロメオの行き先を知っている。  ドアに耳をつけると、中から人の話し声が聞こえてきた。  司教はいま部屋にいる。  ユァンは胸のロザリオを握り、逆の手でノックをする拳を作った。この部屋に入ると、いつも緊張しすぎて気分が悪くなる。でも……バルトロメオに会うためなら。  意を決して、部屋のドアをノックした。  中から聞こえていた話し声が止み、ドアの向こう側から足音が近づいてきた。このゆったりした足音はシプリアーノ司教だと、ユァンは直感する。 「……誰かな?」 「ユァンです」 「ユァンか」  目の前のドアから光が漏れ、目尻にしわを寄せて微笑む司教の顔が覗いた。 「どうしたね? 入りなさい」 「はい……」 (昨日は激怒してたっていうけど……)  ユァンはいぶかしみながらも、促されるまま中へと足を進める。  子供の頃から知っている相手なのに、シプリアーノ司教の感情はどうも読めない。聖職者という立場上、あえて感情を表に出さないようにしているのか。  そんなことを思っていると……。 「あ……」  応接用のソファに座っていた人物が立ち上がった。 「ユァン、一日ぶりだね」  昨日会った白いローブの青年だった。もしかしたらこの部屋でバルトロメオに再会できるのではと思っていたのに……、淡い期待はそこで消える。 「ユァン、ヒエロニムスに会ったそうだね」 「ヒエロニムス?」 「彼の名前だ」  シプリアーノ司教が紹介した。

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