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第67話:獅子と牝山羊10
「彼がペティエ神父を告発してきたんだが……」
じっと腕組みしていた司教が沈黙をやぶった。
「ヒエロニムスの話が本当なら、ブラザー・バルトロメオにペティエを非難する資格はない」
ユァンは耳を疑った。
「えっ、でもその件は……!」
「ああ、それとこれとは別の問題だ。告発があったからには、ペティエのことは調べなければならない」
ユァンの思考を先回りするようにして、司教が答えた。
「だがユァン、疑惑がある以上ペティエに子供を近づけられないように、お前をブラザー・バルトロメオのそばに置くことはできない。分かるね?」
ユァンにも司教の考えは理解できる。けれど納得はできなかった。
ここで折れたら、二度とバルトロメオに会えない気がして。ユァンは勇気を振り絞る。
「しかし司教さま、僕は大人です。だから、ペティエ神父のケースとは違う……」
司教が目をみはった。気弱で従順なユァンが言い返したのだ。驚くのも無理はない。
「お前が小さな頃から、ユァン、私はお前を知っている。これでも特別に目をかけてきたつもりだ。今でもまだ、お前には精神的に未熟なところがあるからと思って……心配しすぎだろうか」
両手の指を組み、司教は考え込むように目を伏せる。それからキッとユァンを見据えた。
「いや、やはりお前はまだ子供だ。あんな男にたぶらかされるくらいなら、そばに置いて、私が直接教え諭すべきだった」
「司教さま……?」
その強い視線にユァンは怯んでしまう。
「ユァン、我々は神に仕える身だ。神との契約は絶対だ」
この人のこの声で言われると、ユァンは昔から逆らうことができないのだ。
「禁欲の誓いも当然、守られなければならない。ソドミーなどもってのほかだ」
「……それは……」
司教は自分たちのことをどこまで知っているのか。それともただ、バルトロメオの過去を非難しているだけなのか。
陸に打ち上げられた魚のように、ユァンはパクパクと苦しい息をしていた。気持ちがあせるばかりで、肺に酸素が入ってこない。
(……でもっ、言わなきゃ!)
座っていられずに、ソファの背に手をかけて立ち上がった。それでほんの少し息ができる。
「ブラザー・バルトロメオはどこにいるんです!? あの人がどんな人かは、僕が、自分の目で見て確かめます!」
ヒエロニムスは驚いたようにまばたきしたあと、口の端に苦笑いを浮かべる。一方、シプリアーノ司教は厳しい表情でユァンを見つめ続けた。
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