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第73話:獅子と牝山羊16

「えーと……みんないるね?」  バルトロメオと一緒に牧草地の元いた場所にたどり着き、ユァンは山羊たちを数え始める。  子山羊はユキと兄弟のところへ戻っていった。 「……あれ、あと一頭?」 「最後の一頭はあそこにいる」  背の高いバルトロメオが遠くに見える山羊の頭を指差し、確認が完了した。山羊たちはそろそろお腹いっぱいになっただろうが、もうしばらく運動させてから山羊小屋に戻ることにする。  ユァンとバルトロメオは荷物と本が置きっ放しになっていた木陰に入った。 「実は……もう会えないんじゃないかって考えてた」  並んで座り、ユァンはぽつりと打ち明ける。そんなユァンの肩を抱き寄せ、バルトロメオが頭の上にキスをした。 「俺は黙ってユァンの前からいなくなったりしない」 「それは、信じてるけど……」  ユァンはひざの上にある焦げたパンを見つめる。 「司教さまが、疑惑がある以上、僕をバルトのそばに置くことはできないって……。だからきっと、お世話係を外された」 「疑惑? 引き離された原因は、山羊小屋でキスしてたことだけじゃないのか」 「うん……ブラザー・ヒエロニムスが……」  名前を出した途端、バルトロメオの手がすっと肩から離れた。 「そうだった、あいつが来てるんだったな」  言いながら煩わしそうに髪を掻く。 「どういう関係なの? あの人とは」  ヒエロニムスは〝同期〟だと言っていたが、ユァンにはそれだけとも思えなかった。 「教会の付属学校からの同級生だよ。昔から何かと目の敵にされてた。俺はルールに縛られるタチじゃないし、行儀もいい方じゃない。あいつに攻撃される口実はいくらでもあったわけだ」  バルトロメオは口をへの字にねじ曲げてみせた。  聞くところによるとバルトロメオは名門の出らしいが、そのわりに野生児みたいに破天荒な性格だ。ユァンから見ても教会本部は血統主義の縦社会に見えるし、真面目にやっている同級生から見たら、彼の存在は目障りだったんだろう。そこに確執が生まれてしまうのも致し方ない気がする。  だからといってヒエロニムスのあのこだわりようは、さすがに異常だと思うけれど……。 「あいつがなんて言ったんだ」  そのことを聞かれて、ユァンはためらいながらも口を開く。 「バルトのことを、人殺しだって言ってた。本当かどうか知らないけれど、恋人を、ソドミーの罪で死なせたって……」  バルトロメオはすぐには反応を返してくれなかった。ユァンが戸惑いながら見上げると、彼の眉間に縦のしわが刻まれている。 「バルト……? 何か言ってよ」 「それが本当だとしたら、ユァンはどう思う?」 「え……僕?」  答えるのは自分なのか。ユァンは深い色をした彼の瞳を見つめた。

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