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第77話:獅子と牝山羊20

 それから二人は草の上に転がっていたパンを拾い、山羊たちを連れてぼちぼち引き返すことにした。バルトロメオの放置してきた石窯は、もうすっかり冷え切ってしまっているだろう。彼もすぐに戻るつもりだったのだろうが、求め合う者同士が久々に会えば、自然の摂理としてこうなってしまう。 「バルトの新しいお世話係、今頃困っているだろうね……」  ユァンが重い足を進めながらつぶやくと、バルトロメオが腕組みして苦笑いを浮かべた。 「まあ、ほっとけばいいんじゃないか?」 「僕のせいで遅くなったのもあるし、なんだか申し訳ないな……」 「ユァンが気に病む必要ないって。相手が相手だしな」 「相手……?」  ユァンは山羊の群れを追っていた視線を、隣を歩くバルトロメオに移す。 「ああ……言う必要もないかと思って言わなかったんだが、今は俺、ペティエ神父の下についているんだ」 「ええっ、ペティエ神父!?」  思わず大きな声が出た。神父がバルトロメオの不在に気づき、薄い頭を掻きむしっている様子を思い浮かべる。 「あの人はあれで、ここでは修道院長に次ぐ高位な方で……」  そんな人が、厄介な客人の世話係を押しつけられているとはどういうことなのか。困惑するユァンにバルトロメオが種明かしする。 「司教がユァンを俺の世話係から外すって言うから、だったらペティエ神父の下につけてくれって俺が自分から頼んだんだ。投書のこと、あの神父や取り巻きのやつらにも直接話を聞いてみたくてさ。何かしら新事実がぽろっと出てくるかもしれないし」 「な、なるほど……」  ユァンには想像もつかなかったアクロバティックな立ち回りだが、バルトロメオらしい気がした。 「ちょうど神父は養護院の相談役から外されたところだったから、子供の世話をする代わりに俺の世話ってことになったわけだ。司教も初めは微妙な顔をしてたけど……ペティエ神父のことも腹に据えかねているみたいだったから、一種の懲罰人事(ちょうばつじんじ)ってやつだよな」 「そっか……」  納得しかけてから、ユァンはある違和感を覚える。 「あれっ? じゃあ司教さまは、バルトからの告発を信じてるんだ……」 「ん、なんか引っかかるか?」  バルトロメオが不思議そうにユァンを見た。 「あのね、司教さまは昨日〝告発があったからにはペティエのことは調べなければならない〟って言ってて。それなのに、調査もせずに懲罰人事って……」 「ああ……」  ユァンの説明にバルトロメオも歩く足を止め、思案顔になる。 「確かに俺の言葉をそのまま信じるなんて、あのおっさんらしくないよな。それにペティエ神父が素直に罪を認めるとも思えないし。だとしたら……」 「だとしたら……何?」  宙をさまよっていた彼の視線が、ユァンに向けられた。

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