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第82話:獅子と牝山羊25
(この人と、恥ずかしいことをたくさんしたい!)
ユァンは沸き上がる自分の欲望に驚き、両手で顔を覆った。
「ユァン、どうした。顔を見せてくれ」
やんわりとその手をどけられる。
「でも僕……」
「なに」
「言えない、恥ずかしい……」
「俺はアンタの恥ずかしいところが見たい」
裸電球に照らされて、バルトロメオが白い犬歯を覗かせた。その笑顔はまるで砂糖菓子のように甘い。
「俺だって恥ずかしいよ。ずいぶん年下のアンタに骨抜きにされて。アンタにねだられたからって浮かれて犬みたいに尻尾振ってるわけで……実際振ってるのは尻尾じゃなくて腰だけどな。……あ、これでも俺、修道士なんだっけ」
「なにそれ」
ユァンは思わず笑ってしまう。
「だからユァン、今はせっかくの逢瀬を楽しもう。明日も明後日も、その先もずっと俺はアンタのことを愛してる。それを印しておくために、俺をアンタに刻ませてくれ」
(それがバルトの言う、愛し合うことの意味……)
うっとりと目を閉じ、ユァンはバルトロメオの愛撫に身を任せた。
さっきから、中の気持ちいいところを擦り上げられて、そこに熱い疼きが積み重なっている。
「あぁ、ふう、ひっ……バルト、そこ、きもちい……」
「ああ、知ってる。アンタのことは全部」
快感をそのまま表現すると、彼は満足そうに笑った。
「なんでバルトは……こういうこと、上手なの」
自分との経験値の差を思い、ユァンは唐突に、彼の過去の恋人たちに嫉妬したくなる。
「何、怒ってるのか」
「怒ってる……わけじゃ……」
首に回している手で、彼のドレッドヘアに指を絡めた。こうすると少し頭皮が痛いかもしれない。ユァンはそれで不満を伝える。
「好きだから、全部欲しい! それなのに、バルトはまだ……なんか余裕で!」
「余裕なんかあるもんか! 俺がいつも、どれだけアンタに翻弄されているか!」
背中の下のすのこがギシギシと悲鳴をあげている。上から吊された裸電球が揺れていた。
「ユァン、ユァン、くっ、もう」
裸電球から目を転じると、額に汗を浮かべ、熱い息を吐くバルトロメオの顔が目に映る。そのとろけた表情に胸を鷲づかみにされてしまった。
「バルト、好き……」
「……あっ、馬鹿っ!」
一気に上り詰めてしまったのか、彼の白濁が勢いよく飛び散る。
「ああっ!」
顔や胸に熱いシャワーを浴びせられ、ユァンはあるはずのない子宮が脈打つのを感じた。その感覚に引きずられ、ユァンの前もはぜる。
「あ……はぁ……うそ……」
へそのくぼみで混じり合う、彼と自分の白濁液を見下ろす。しかしそれを眺める暇もないまま、バルトロメオがユァンの両脚を抱え上げた。
「今のナシ! やり直し!」
「えええ……?」
「だって、中に出したかった!」
もう何度目なんだろう。山羊たちも呆れているんじゃないかと思い、ユァンは視線を巡らせた。オレンジ色の灯りに照らされた山羊小屋の中。ほとんどの山羊たちは眠っているけれど、何頭かが耳を立てている。
と、その中の一頭が、ガラスのはまっていない窓の向こうへ首を巡らせた。
(何……?)
嫌な予感を覚える。深夜のこの時間、山羊小屋に人が近づくことはないはずだ。ここは建物から離れていて、一番近い礼拝堂へ行くにも菜園を回り込んでいかなければならない。だからたまたま人が通るなんてことはない。
しかし山羊は耳を立てたまま、向こうを見て固まっていた。
(外に、誰かいる?)
バルトロメオもユァンも一糸まとわぬ姿で、いま誰かにここを覗かれれば終わりだ。温かな汗に覆われた体に、違う汗が出た。
「……どうした? ユァン」
体を繋げたまま、バルトロメオが動きを止める。
「誰か……いる、かも……」
「……?」
ユァンの視線をたどり、バルトロメオが立ち上がった。それから彼は美しい筋肉に覆われた背中をさらしながら、窓のところまで歩いていく。
けれどもすぐに戻ってきて、ユァンの額にキスをした。
「大丈夫だ。アンタは何も心配しなくていい」
こめかみに、それから手首の内側に、温かな唇が移動していく。
「気のせい、だったらいいんだけど……」
黒いもやのような不安は、優しいキスだけでは押し流せそうにない。それでユァンはもう一度、彼の情熱に溺れることにした――。
―――
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます!
次の第83話から、いよいよ最終章に突入します。
引き続きお楽しみいただければ幸いです。
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