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第92話:罪と愛10
「ユァン! 心配させるんじゃねーよ!」
山羊小屋に寄ってから宿舎の部屋に戻ると、待ち構えていたルカにいきなり跳びつかれた。
「ルカ、ごめん……えーと、日曜礼拝のあと軽い貧血を起こして、それから司教さまの部屋で休ませてもらってた」
抱擁らしきものを受けながら、ユァンは心配をかけまいと言い訳しておく。とっくに消灯時間を過ぎていて、宿舎の部屋は暗がりだ。そのせいで、お互いを手探りで確かめ合う感じになっていた。
「修道院長か、あのムッツリに何かされなかっただろうな?」
拗ねた声で言うルカの言葉にドキリとする。
「ムッツリって……」
ルカは何か勘づいているんだろうか。
「何もないよ……」
「ユァンはお人好しだからな。何かされても気づいてないかもしれない」
「そんなわけないって」
「どうだか……!」
ルカは呆れたようにため息をつき、ユァンの体を突き放した。こんな態度だけれど、きっと本当に心配してくれていたんだろう。
実家を継ぐため聖クリスピアヌスへ修行に来たルカと、たまたま同室になったのはまだ寒かった頃。ぶっきらぼうで冷淡にも見える彼だが、その心根はとても優しいと、最近ユァンは気づき始めていた。
「ルカ、ありがとう」
「何が」
「心配してくれて」
「いいから寝ろよ」
ルカはわざわざユァンのベッドから枕を取って、それを押しつけてくる。
戸口の方からバルトロメオの声が聞こえてきた。
「おーい、俺のいる前でイチャイチャしすぎじゃないか?」
「ンだよ、あんたまだいたのかよ! さっさと自分の部屋に戻れよ」
邪険にするルカに、バルトロメオが笑いを含んだ声で応じる。
「お前なあ。俺を人捜しに使っといて、ずいぶんな言いようだな」
「そっちが暇そうだったから、やること作ってやっただけだろ」
「暇そうって……これでそこそこ忙しい身なんだが……」
バルトロメオがぼやいた。けれど彼は修道士見習いということになっているから、一人でフラフラしていれば暇に見られても仕方ない。
ルカの口撃は続く。
「知ってんだぞ! あんたユァンに下心があって来たんだろう。修道士のくせに何考えてんだ、てめえのはてめえで慰めて大人しく寝ろっての!」
「ル、ルカ~!?」
その発言はユァンの方が慌ててしまい、ルカの口を枕で塞いだ。
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