92 / 116

第92話:罪と愛10

「ユァン! 心配させるんじゃねーよ!」  山羊小屋に寄ってから宿舎の部屋に戻ると、待ち構えていたルカにいきなり跳びつかれた。 「ルカ、ごめん……えーと、日曜礼拝のあと軽い貧血を起こして、それから司教さまの部屋で休ませてもらってた」  抱擁らしきものを受けながら、ユァンは心配をかけまいと言い訳しておく。とっくに消灯時間を過ぎていて、宿舎の部屋は暗がりだ。そのせいで、お互いを手探りで確かめ合う感じになっていた。 「修道院長か、あのムッツリに何かされなかっただろうな?」  拗ねた声で言うルカの言葉にドキリとする。 「ムッツリって……」  ルカは何か勘づいているんだろうか。 「何もないよ……」 「ユァンはお人好しだからな。何かされても気づいてないかもしれない」 「そんなわけないって」 「どうだか……!」  ルカは呆れたようにため息をつき、ユァンの体を突き放した。こんな態度だけれど、きっと本当に心配してくれていたんだろう。  実家を継ぐため聖クリスピアヌスへ修行に来たルカと、たまたま同室になったのはまだ寒かった頃。ぶっきらぼうで冷淡にも見える彼だが、その心根はとても優しいと、最近ユァンは気づき始めていた。 「ルカ、ありがとう」 「何が」 「心配してくれて」 「いいから寝ろよ」  ルカはわざわざユァンのベッドから枕を取って、それを押しつけてくる。  戸口の方からバルトロメオの声が聞こえてきた。 「おーい、俺のいる前でイチャイチャしすぎじゃないか?」 「ンだよ、あんたまだいたのかよ! さっさと自分の部屋に戻れよ」  邪険にするルカに、バルトロメオが笑いを含んだ声で応じる。 「お前なあ。俺を人捜しに使っといて、ずいぶんな言いようだな」 「そっちが暇そうだったから、やること作ってやっただけだろ」 「暇そうって……これでそこそこ忙しい身なんだが……」  バルトロメオがぼやいた。けれど彼は修道士見習いということになっているから、一人でフラフラしていれば暇に見られても仕方ない。  ルカの口撃は続く。 「知ってんだぞ! あんたユァンに下心があって来たんだろう。修道士のくせに何考えてんだ、てめえのはてめえで慰めて大人しく寝ろっての!」 「ル、ルカ~!?」  その発言はユァンの方が慌ててしまい、ルカの口を枕で塞いだ。

ともだちにシェアしよう!