93 / 116

第93話:罪と愛11

 バルトロメオは笑いを含んだ鼻息だけで応える。今の指摘について否定する気はないようだ。二人がこれ以上言い合って他の部屋の修道士たちを起こしてしまう前に、ユァンはこの場を解散しようと試みる。 「バルト! さっきは迎えにきてくれてありがとう。それからおやすみ……」 「ああ、うん、おやすみ……」  バルトロメオが大人しく引き返す素振りを見せたので、ユァンはほっと胸を撫で下ろした。ところが……。 「……けど、ユァン」  行きかけた彼が、廊下の灯りを背に振り返った。 「やっぱり俺は、アンタのそばを離れるべきじゃないと思っていて……」 「え……?」  無意識に枕を抱きしめると、口元から枕が外れたルカがさっそくバルトロメオを威嚇する。 「ユァンにまだなんかあんのか」  バルトロメオが苦笑した。 「ちょっと外野は黙ってろよ」 「どっちが外野だ」  牽制し合う二人を、ユァンがぶつかり合う視線の間から手で制す。 「二人とも、もう消灯時間が過ぎてるから……」  バルトロメオがユァンに向き直った。 「でもユァン、行く前にこれだけ言わせてくれ」  逆光でも、まっすぐな瞳の輝きは感じ取れる。 「俺はアンタを面倒なことに巻き込んで、結果的に傷つけている。けどもう後戻りはできない。俺はアンタを心から愛しているし、支えたいと思っている」  それをいま言うのかとドキッとしたけれど、屋根の上であんな話をしたあとだ。独り寝のベッドで、ユァンを不安にさせたくなかったんだろう。そんな彼の思いが胸に染みる。 「だから一人で無茶するな。俺がそばにいる。二人で決着をつけよう。分かったな」  一気に言ってから、バルトロメオが大股で来てユァンの頬に手を触れた。枕を抱くユァンの腕に力がこもる。 「バルト……分かった……」 「今夜、その返事が聞けてよかった」 「おい、俺は完全に外野扱いか……」  その場の空気に呑まれたのか、わめくルカの声に力がなかった。  バルトロメオはキスしたそうにユァンの唇を撫でたあと、さっと離れて踵を返す。 「ってことで明日の朝、また来るな」 「明日? 山羊の世話に一緒に行けるの?」  バルトロメオはペティエ神父たちの奉仕活動に駆り出されていて、あまり自由には動けないはずだ。そんな疑問を持つユァンに、彼は首を横に振ってみせる。 「逆だ。アンタが奉仕活動に来ればいい。なんなら山羊も連れて」 「……えっ、僕が奉仕活動に!?」  思いもよらない展開に、時間を気にしていたユァンも大きな声が出てしまった。

ともだちにシェアしよう!