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第97話:罪と愛15

 色素の薄い彼を夕暮れが、鮮烈な色に染めている。 「相変わらずかわいいねえ、ユァンは。穢れも知らない子供みたいな顔をして、夜はびっくりするほど大胆なんだもんな。そりゃあ、司教もあいつも恋に狂ってしまうわけだ」  彼は面白そうに笑いながら、立ち尽くすユァンの前にしゃがみ込んだ。 「ここへ、何しに来たんですか?」  ユァンは震える声で問いかける。しかし彼はその問いには答えない。 「僕はね、きみのこと、不憫でかわいいだけの子供だと思ってたんだ。ほら、ここにいるこの子みたいに」  ユァンにまとわりついていた雌の子山羊の前脚をつかみ、彼が乱暴に引き寄せた。 「すっかり誤解してた」  子山羊が小さくメェと鳴く。 「……っ、何をするんです」 「何もしないよ、撫でるだけ」  本当に悪気はなかったのか、ヒエロニムスは子山羊の首元を優しく撫で始めた。子山羊は身を固くして状況を窺っている。 「山羊を撫でに来たんですか?」 「そんなわけない」 「だったら目的を言ってください」  ユァンは思い切って強めに聞く。するとヒエロニムスの視線が、子山羊からユァンのところに戻ってきた。長いまつげにオレンジ色の光が乗る。 「僕ね、動画編集が得意なんだ」 「は……?」 「見る?」 「え……?」  彼はポケットから、バルトロメオが持っているのと同じような携帯端末を取り出した。それをほんの少し操作してから、ユァンの顔に近づける。  画面に暗い山羊小屋の窓が映った。 (え――?)  見覚えのある景色にハッとなる。 「これ、せっかく撮れたのに画面が暗くて。顔が分かるところまで調整するのに苦労したよ」  彼が端末側面にある小さなボタンを何度か押した。 「でも音声はきれいに撮れてる。きみの声、分かるよね? それにエッチな水音と、肌がぶつかる音。すのこがガタガタ鳴ってる音も、臨場感があって悪くない」  ユァンは息ができなかった。ヒエロニムスは滔滔(とうとう)と話し続ける。 「ねえ、ソドミーってそんなに気持ちいいの? それとも神に背くのが気持ちいい? どっちなんだろうって、僕はずっとこれを見ながら考えてたんだ。そしたらなんだか、きみが羨ましくて死にたくなった。きみは淫らに抱かれる以外、何もできやしないのにね」  携帯端末を下ろし、ヒエロニムスは暗い笑みを浮かべる。 「それで主演のユァン君、感想は?」 「…………」 「あ、僕に見られて嫌だった? 僕だって好きで覗いたわけじゃないんだよ。シプリアーノ司教がバルトロメオを追い返したがってるから、法王庁に告げ口するのにあいつが好き勝手やってるっていう証拠が必要だったんだ」 「告げ口……証拠……?」  ユァンはようやく息を吸い、ヒエロニムスの顔を見た。 「そうだよ。この動画を向こうへ送ったら、さすがに問題にならないわけがない。あいつはすぐに呼び戻されて、おそらく役目を解かれるだろう。そしたら僕はあいつのいない法王庁で平和に仕事ができるし、シプリアーノ司教にも貸しを作れるってわけ。ね、いいことずくめだと思わない?」  彼はユァンにではなく、撫でている子山羊に向かってそう言った。

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