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第98話:罪と愛16
「そんなの困る!」
しゃがみ込んでいる彼の前に、ユァンは勢いよくひざを突く。
「僕たちのしていることは、確かに神に背くことなのかもしれない。でも、悪いのはバルトじゃない! 僕があの人の優しさに甘えて、あの人の愛を求めたんだ。本当にごめんなさい! だからお願い、罰するなら僕にして!」
「それ、本気で言ってるの?」
床に両手を突くユァンを見つめ、ヒエロニムスは何度かまばたきをくり返した。
「僕はね、きみにこう提案しようと思って来たんだよ。バルトロメオに無理やり犯されたって証言するなら、きみ自身のことはお咎 めナシで済むように口添えするって」
(え……?)
ユァンは耳を疑った。そんな嘘、ソドミーよりずっと神に背くことだ。
「でもきみは、そんな誘いには乗りそうにないね?」
「そんなの当たり前です」
「ならこういうのはどう?」
ヒエロニムスがふいに顔を近づけてきて、額と額がぶつかりそうになった。
「きみはバルトロメオを捨てて僕のものになる。僕は恩師を捨ててこの件から手を引くよ」
「でも……それであなたに、どんなメリットがあるんですか?」
「メリット? さあ? あいつの傷ついた顔が見られるだけ」
彼は肩を震わせて笑う。
「でも最高だと思わない? 僕は会うたびあいつの耳元で、ユァンとの夜は最高だってささやいてやるんだ。あいつ、どんな顔をするんだろうな? 悔しがるのか怒るのか。平気な顔をしてみせたって、絶対に心穏やかじゃいられないよ。きみとの夜を思い出し、独り寝をするあいつもいいな。きみのことを想う時は、嫌でも僕のことまで思い出すんだよ。複雑だろうね、ククッ、ホントたまんない!」
ヒエロニムスの肩は震え続ける。大切な人を笑われている、そんな状況に、ユァンは腹の底にふつふつと怒りが湧いてくるのを感じた。
「あなたに僕を抱く勇気なんかないくせに……」
言い返すとヒエロニムスは、いきなりユァンののどをつかんでくる。
「僕に何もできないと思ってるのか! お前を毎晩裸にして、鞭で打ってもっとってせがむ体にしてやってもいいんだよ?」
二人のそばにいた雌の子山羊が、震えた声で鳴きながら逃げていった。
のどをつかんでいた手が、つうっと下へ滑っていく。
「もちろん大人しく従うなら、わざわざそんなことはしないよ。僕もきみには興味があるし、仲良くやっていきたいと思ってる」
ひどいことを言うわりに、この人はいつもどこか寂しそうだ。ユァンは胸の痛みを感じながら、次の言葉を口にした。
「それでも僕はあなたを愛せないし、あの人を愛さずにはいられない……」
「だったら動画はどうする?」
ヒエロニムスの眉間にしわが寄った。
「分かってないみたいだからはっきり言う! きみの選択肢はふたつしかない。あいつと心中するか、あいつを捨てて僕のものになるかだ」
冷ややかな瞳に見つめられ、ユァンの呼吸は浅くなる。
「さあ、どっちにする?」
「……っ……」
「きみはあいつを見殺しにできないだろう。あいつのために罰を受けようって、さっきそう言ったばかりだもんね。だったら考える余地はないと思うけど」
また彼の手がのどを撫で、ユァンの修道服のボタンにかかった。
「脱いでごらん?」
「……!?」
「僕のものになるなら裸になってみせて」
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