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第99話:罪と愛17

 ユァンの視線もゆっくりと下がっていく。思わずボタンを押さえたけれど、その手は小刻みに震えていた。 「あいつの前では自分から脱ぐの? それとも裸にされてる? ……どっちもありそうだな。きみってばとっても大胆だから」  ヒエロニムスの口角が持ち上がった。 「あいつに抱かれているきみを見た時、僕はすごく興奮したよ。今も同じくらい興奮してる。きみはとても美味しそう。でも今は震えているね」  ボタンを押さえている手の甲を撫で、彼はユァンの頬にキスをする。 「覚悟ができたら僕の部屋へおいで。どうせ結論は決まってるんだ、楽しみに待つことにする」  もう片方の頬にも丁寧にキスを落とし、ヒエロニムスは静かに去っていった。  * 「ねえバルト、もし僕とのことが明るみに出たら、バルトは職を追われるの?」  夜、山羊小屋から宿舎に戻る道すがら。ユァンは思い切ってバルトロメオに聞いてみた。  半歩前を歩いていた彼は、驚いたような顔をしてこちらを振り返る。 「それは、ソドミーの罪でか?」 「うん……」 「どうだろうなあ?」  バルトロメオは顎を撫で、また歩きだす。 「こういう時代だ。それだけで教会から即追放ってことにはならないと思うが……正直、今はタイミングが悪い」 「タイミング?」 「つまり、今アンタは俺の捜査対象だ」 (そうだ、バルトは僕を被害者側の想定で調べてるんだ……)  ユァンは恋人であり、捜査官である彼の横顔を仰ぎ見た。 「捜査対象と私的な関係になっちゃいけないってこと?」 「まあ。私的な関係になればどうしたって捜査に私情を挟む。実際俺がアンタに肩入れしすぎていることは、アンタ自身も気づいているだろう」 「うん……」  ユァンは歩く足下に視線を落とした。森の方から、風に乗ってフクロウの鳴き声が聞こえてくる。ちょうど彼らの恋の季節だ。  一方でユァンとバルトロメオの恋は、綱渡りの末、危険な崖の上にたどり着いてしまった。  あの動画がいま法王庁に送られれば、バルトロメオは教会組織で積み上げてきたものを失う。ヒエロニムスはユァンの決断を待つと言っているからすぐには動かないだろうが、いったいいつまで待ってくれることか。  この状況を打開するにはユァンがヒエロニムスの意に従うか、自身がバルトロメオの捜査対象でなくなるしかないように思える。つまり司教との過去を明らかにし、捜査を終わらせる必要がある。  けれど捜査が終われば、バルトロメオは法王庁に戻ってしまうのだ。  恋人の危機を救うためには、恋を手放すしかないのか……。  ユァンは夜風に身震いし、自分の細い肩を抱いた。 「バルト、あなたは僕にとって空の星だ。あなたにはずっと、高い場所で輝いていてほしい」  ユァンの唐突な言葉に、バルトロメオは微笑みで応えた。 「男は高い場所が好きだからな。けど俺は、山羊小屋の飼葉の上に、輝く星を見つけてしまった」  彼の大きな手のひらが頭の上に乗り、ユァンは吸い寄せられるようにしてその胸に飛び込んだ。夜とはいえ宿舎に戻る道の途中だ。誰かが窓からでも見ていれば、自分たちは関係を疑われる。  それでもユァンは恋人の熱が欲しかった。 「ユァン、聞いてくれ」  バルトロメオがユァンの乱れた髪にキスをした。 「もう、聖クリスピアヌスにいる修道士百人、ほとんどへの聞き込みが終わっている。じきに捜査の結論は出るだろう。この件さえ片づけば、俺は教会よりアンタといることを優先して動くつもりだ」 「僕と……?」 「あと、できれば山羊もか。一緒に生きられる方法を探そう。だから、もう少しだけ待ってほしい」 「……うん、ありがとう」 (……でも、それはさすがに夢だ。その気持ちだけで僕は十分……)  ユァンは笑顔を作り、バルトロメオの胸から離れた。

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