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第102話:罪と愛20
「おいユァン……! 修道院長、このあと出かけるみたいだぞ」
朝の礼拝のあと。礼拝堂の外回廊で、追いかけてきたルカに耳打ちされた。
「えっ、本当に?」
「ああ。車を表に回すようにって、いま指示しているのが聞こえた。たぶん講演会の打ち合わせかなんかだ」
ルカがシプリアーノ司教の不在を伝えてくるのは、例の鍵のかかったクロゼットの件があるからだ。司教がいるところで鍵を開けるわけにはいかないから、必然的に留守を狙うことになる。
(本当にやるんだ……)
突然巡ってきたチャンスに、ユァンの緊張は高まった。
ルカが肩を引き寄せ、耳元で言う。
「大丈夫だ、俺がいる。本館の掃除は普段からこの時間だから、一緒に行けば自然に潜り込める」
「でも、ルカまで巻き込むのは……」
ユァンとしては、ためらわずにはいられなかった。無断で人の部屋を漁るんだ。見つかれば、ルカまで責めを負うことになる。
「お前一人で潜り込めんのか? ユァンはドン臭いからなあ。背中がお留守ですぐ人に見つかる気がする」
そういえばバルトロメオを探して宿泊棟に潜り込んだ時には、呆気なくヒエロニムスに捕まった。
「き、気をつけるから大丈夫だよ……」
「その顔は全然大丈夫じゃないだろ」
「そんなことないって……!」
廊下の隅でこそこそと言い合っていると、突然後ろから声をかけられる。
「仲良さそうに、なんの内緒話だ?」
「わあっ、バルト!」
「俺も入れろ」
バルトロメオが二人の肩をつかんで間に入ってきた。
「あんたには関係ねーだろ!」
ルカがバルトロメオを押し戻そうとする。が、バルトロメオは放されまいと、ユァンの肩を抱いてきた。
「ユァンに関係することなら、俺にも関係があるんじゃないのか? な、ユァン」
「えーと……」
ユァンは嘘がつけずに恋人の顔を仰ぎ見た。深い色をした瞳と、それを囲む健康的な白目のコントラストに惹きつけられる。
関係があるかどうかといえば、実際のところ、この件に関してバルトロメオは当事者だ。彼に秘密でシプリアーノ司教の部屋に忍び込んでも、最終的にはその結果を報告することになるだろう。だったらあえて隠す必要はないようにも思えた。
しかし司教の日記を覗いて、恋人には知られたくないような事実が出てくるかもしれない。その時自分はどうすればいいのか……。ユァンにはそれが不安だった。
「ユァン」
黙って見つめていると、また名前を呼ばれた。
「アンタは本当に分かりやすいな。俺に言うべきかどうか迷うようなことなら、素直に言えばいい。大人の男の、懐の深さをナメてもらっては困る」
「バルト……」
そこまで言われて黙っていられるほど、ユァンは器用ではなかった。
周りに人がいないことを確認し、バルトロメオに耳打ちする。
「実はこれから、司教さまの部屋に忍び込むつもりなんだ」
「えっ……?」
さすがのバルトロメオもそれには小さく声をあげた。短くルカと視線を合わせ、ユァンは続ける。
「ルカ曰く、あそこのクロゼットに、司教さまの書いた過去の日記がありそうだって。それを見たら、僕も昔のことを思い出せるかもしれない」
「…………」
バルトロメオが眉間にしわを寄せた。
「アンタに覚悟があるなら止めないが、当然俺も立ち合わせてもらう」
そう言われることはユァンも予想していた。彼も捜査官として、立ち会わないという選択肢はないだろう。司教の部屋を勝手に漁るなんて、そんな権限が彼にあるのかどうかは知らないが。
「だったら行こう! 早い方がいい」
ルカは止めなかった。バルトロメオの同行に、彼は反対するかと思ったが。
「……というか、三人で行くことになってる!?」
さっそく行こうとするルカを、ユァンが慌てて押し留める。
「呉越同舟 ってところだな。忍び込むのに、見張りの人数は多い方がいいだろ」
ルカが真面目な顔をして答えた。
「僕はルカと行くとも言ってないんだけど……」
しかしこうなったら乗りかかった船だ。一緒に漕ぎ出すしかない。行きつく先が見えないのが不安だけれど……。
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