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第106話:罪と愛24
その正体を認識し、ユァンは雷に打たれたような衝撃を受ける。
「なんだ?」
バルトロメオが来てそれを拾った。
「なんで、こんなものがこんなところに……いや、確かに隠すべきものだが」
顔を歪め、彼は不可解そうにしている。
「っていうか司教はそっち側なのか。とりあえず見なかったことに」
「ちが……違うんだ、バルト……」
思わず否定してから、ユァンは言わなければよかったと後悔した。けれどこちらを見るバルトロメオの顔は、すでに事態を悟ってしまった表情だった。
「ユァン……」
ユァンは泣きたい気持ちで言葉を続ける。
「それ……僕の……」
「…………」
「なんで……こんな……タイミング、悪すぎる……」
立っているのがきつくて、ユァンはふらりと壁に腕を突いた。
「ユァン!?」
「待って、来ないで! 説明するから……」
記憶のトリガーがこんなものだったなんて本当に最悪だ。もう終わりかもしれない、そう思う相手の顔を見ながら、ユァンは十二年前に引き戻されていった。
*
誰もいない礼拝堂から逃げ出して、外にある農作業用の水道で顔を洗った。
もう何度目だろう。ここにいる人たちはみな穏やかで優しいけれど、言われるままについていくと、暗がりで変なことをされることがある。
興奮を孕 んだ声、視線……そういうものが怖い。顔を洗って濡らしてしまった服の冷たさと、それとは別のほの暗い恐れに少年は身震いした。
それからひと息ついて振り返った時、向こうから来る背の高い人の姿が目に入る。
シプリアーノ司教だった。
「ユァン、こんなところで何をしている。部屋で本を読んでいるよう言ったはずだが」
少年の顔を見て、それから二秒後、司教はわずかに顔を強ばらせた。
「またか。どうしてお前は……」
彼はユァンの手をつかみ、そのまま建物の方へと歩きだす。
「そんな顔をするな。私は何度も忠告したはずだ。お前自身の不用意さが、ここの風紀を乱している」
ユァンは視線を足下へ落とし、ただ脚だけを動かすことにした。気持ちが収まらないのか、司教は早口で続ける。
「私も初めはここの者たちを責めて罰した。だが今は、悪いのはお前の方ではないかと疑っている。せめて嫌だと言いなさい。修道士たちは皆、お前が誘ったと言っているんだ」
「……いやだ……」
つぶやくと、建物の角で足を止めた彼にため息をつかれた。
「いま言うな」
「…………」
「本当に嫌なのか」
「…………」
「嫌なのは私の小言か?」
もちろん、こうやって責められるのは嫌だ。こんなところにいたくもない。けれど彼の手を放したら自分は終わりだということも知っていて、ユァンは何も言えないでいた。
じっと我慢比べのようにお互いの顔を見つめて、それから司教の方が視線を外す。
「いっそお前を私のものにしたら、他の者は遠慮して手を出さなくなるんだろうか」
「司教さまのもの……」
「そうだ」
「今は違う?」
彼の吐息がわずかに乱れた。
「忘れてくれ」
それから彼が口の中で「神よ」と唱えるのを聞いた。
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