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第109話:罪と愛27

 それから一週間後――。  ユァンははるか海を越え、法王庁の修道士宿舎にいた。  宿舎といってもここは聖クリスピアヌスのそれとは違い、ひとりひとりの部屋が独立した住居になっている。部屋がふたつに風呂やキッチンも個別にあり、プライバシーも保たれているようだ。  環境的には一般の集合住宅とほとんど変わらないと、この部屋の主であるバルトロメオが言っていた。 (そろそろ山羊たちを囲いから出す時間かな)  ユァンは八時半を指す時計を見て、自分も外へ出たくなる。山羊たちを他の修道士に任せてきて一週間経つというのに、ユァンの体内時計はまだ山羊時間だ。  とはいえ外へ出ても、ここにはのどかな牧草地はない。建物の外は歴史情緒を残す都市の風景で、数百人規模の教会関係者と、それよりはるかに多い観光客であふれかえっている。  観光するとなれば世界に名高い博物館、美術館、それにいくつもの歴史遺産を巡ることができるらしい。  けれどもユァンはここへ来てからのほとんどの時間を、この宿舎かもしくは教会本部の取調室で過ごしていた。  聖クリスピアヌスのこと、シプリアーノ司教のこと、他の神父や修道士たちのこと。これまでたくさんのことを聞かれた。あまり話すのが得意でないユァンは時間をかけて丁寧に、事実をありのままに話したつもりだ。それがバルトロメオやみんなの役に立つことだと信じて。  最終的にはシプリアーノ司教は職を解かれ、聖クリスピアヌスで起きたことは教会本部を通じて世界に公表されるだろうと取調官は言っていた。それからこういうことは他の教区でも起きていて、氷山の一角だということも。氷山は地道に切り崩していくしかない。  ユァンはまだ飲み慣れない異国のお茶を飲みながら、窓の外の空を見た。連日の取り調べも今日は休み。いったい何をして過ごそうか……。  そこへ仕事の電話をしていたバルトロメオが、修道服のボタンを留めながら声をかけてきた。 「ユァン悪い、一緒に本部へ来てくれるか。お前を連れて来いと上司からのお達しだ」 「一緒に? なんで……」  ユァンは疑問を口にしてからハッとなる。 「もしかしてあの件……?」 「その可能性は高いなあ」  真面目な修道士ふうの姿に変身しながら、バルトロメオが鏡越しに白い犬歯を見せてきた。  ヒエロニムスの動画の件は、こちらへ来る旅の途中で、バルトロメオに打ち明けた。彼は最果ての修道院に置き去りにしてきたヒエロニムスを殴りたがったけれど、その思いは未だ成就していない。それより司教と聖クリスピアヌスの告発で、それどころではなくなってしまった。  動画の件も、彼の未来にとって無視できない重大な問題であるはずだが……。  *  ゴシック調のきらびやかな執務室で、バルトロメオの上司だという青い目の中年男性は不機嫌そうな顔をしていた。 「個別に弁明を聞こうかとも思ったが、忙しいし正直面倒だった」  その言葉でユァンは、自分の予想が的中したことを知る。  何を言っていいのか分からずにバルトロメオの顔を見上げると、彼は詰襟のところをしきりにいじっていた。普段あまり物事に動じない彼にも気まずい思いはあるらしい。こんな状況だけれども、ユァンはそのことを新鮮に感じる。 「あの動画はなんだ? まずは説明してもらおうか」  こちらに席を勧めることもなく、上司は広いデスクから斜めに身を乗り出して聞いてくる。 「バルトロメオ」  もう一度促され、バルトロメオは口を開いた。

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