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第110話:罪と愛28

 もう一度促され、バルトロメオは口を開いた。 「それより修道士の恋愛と結婚の自由を要求します」 「何? ふざけているのか!」 「ふざけてませんよ、大真面目です! なんで修道士だからって、こんなふうに極々プライベートな部分にまで口出しされなきゃならないんですか! 今の時代、神もそこまで無粋じゃないでしょう。だいたいユァンの裸を勝手に見るとか許せねえ……見たやつ全員抹殺しようかと、俺は本気で思ってます!」 「バルト……」  ものすごい逆ギレをしている恋人を、ユァンは隣でぽかんと見つめた。 「いや、俺は見てないからな……」  上司がユァンの方を見て、気まずそうに目を逸らす。 「え……?」 「さすがにこれはマズいやつだと思ってすぐ消した」 「は? 消すのはむしろマズいでしょう、証拠品なんですから」  どうしてかバルトロメオが非難した。確かにあれは隠し撮りされたものとはいえ、教会法で罰せられるべき罪の証拠だ。  目の前の人は法王直属の調査部門の責任者で、そういう人が証拠を握りつぶすのは普通に考えてあり得ない。  ところが彼は次のひと言で、すべてを済ませてしまった。 「身内の痴態を見たがるほど俺は悪趣味じゃない」 「ああ、もう、だから教会は身内に甘いって言われるんですよ……!」  バルトロメオが呆れ顔で言い返す。 「お前は見られたいのか見られたくないのか」 「見られたいわけないじゃないですか! 俺だってそんな悪趣味じゃない」  デスクの向こうの人がユァンに肩をすくめてみせた。 「ユァンとやら、アンタはこいつに未来を預けているんだろうが……、本当にこいつでいいのか。考え直すなら今のうちだぞ?」  要するにバルトロメオは、本部でもかなりの問題児なんだろう。上司に対してこの口ぶりなんだからそのひどさは察するにあまりある。  けれどもユァンの思いは変わらなかった。 「僕はバルトが大好きです」  緊張しながらもありのままを伝えると、彼はくしゃっと笑ってみせる。 「幸せになりなさい。コイツがこれで仕事のできるやつだってことは、俺が保証しておく」 「これでってどういう意味ですか」  バルトロメオはぼやくけれど、ユァンにとってその言葉は祝福以外の何ものでもなかった。  *  それからユァンはバルトロメオに付き合って、市内の墓地に立ち寄った。  田舎ののどかな墓地しか知らなかったユァンとしては、こんな都会の真ん中に墓地があるというのは意外だったが、中に入ってみると確かにそこは祈りの場であり、故人との語らいの場だった。 「ここには誰が?」  白い墓石の前で聞くと、バルトロメオが小さく笑って答える。 「ユァンが気にしていた俺の元カレ」 「あっ……」  バルトロメオとの関係を苦に自死したと、ヒエロニムスが言っていた若い修道士のことだ。

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