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番外編:修道士たち 檸檬色の冬
※2019年11月に折り本で発表した作品の再掲です
※すみません、本編と時間軸が重なりません
山羊たちを連れて並木道を行くと、高い空から鮮やかな黄色が降ってきた。
「今年も見事だねぇ」
鋭角に天に突き刺さるイチョウの木を、ユァンはうっとりと見上げる。山羊たちのひづめに当たるのも、ここからは檸檬 色の絨毯 だ。
また落ち葉を踏んで進む。と、足先にころんと丸い実が当たった。
「この木の実か?」
背の高いバルトロメオが腰を折り、それを拾い上げる。
「そうだよ。イチョウの実は銀杏 っていうんだよ。炒 って食べられる」
ユァンの説明を聞きながら、彼は銀杏を顔の高さまで持ち上げた。
「なんとも言えん匂いがする……」
「そう。臭くて有名」
「こんなもん食うのか」
「季節の味だからね」
バルトロメオが、理解できない、という顔をしてみせた。
しかし自給自足の修道院では、こういった実りは実質的にも、そして精神的な意味でも天のめぐみである。
「拾っていこう。厨房に持っていけばきっと喜ばれるよ」
ユァンは先へ行く山羊たちを気にしつつ、ローブのポケットに銀杏を集め始めた。
バルトロメオもそれに倣うが、拾ったものは次々とユァンに渡してくる。
「なに……?」
「いや……俺のポケットには入れたくないなと思って」
「この匂いがそんなに嫌?」
実際のところ確かに匂うけれど、ユァンとしては我慢できる程度のものだ。首を傾げていると、バルトロメオがポケットから愛用の携帯端末を取り出してみせる。
「匂いのこともあるが、俺のここにはこれが入ってるからな」
海の向こうから来た修道士は口角を持ち上げて笑い、端末を操作し始めた。
「イチョウだっけ?」
「この木の名前ならそうだよ」
「なるほど……実ができるまで二十五年か。ユァンや俺とそんなに変わらないな」
彼はイチョウのことを調べているらしい。
「僕たち実はつけないけどね」
「木にも雌雄がある」
それはユァンも知っていた。
「他にはどんなことが書いてあるの?」
「そうだな……花粉は風に飛ばされて何キロも旅をするから、近くに雌の木しかなくても受粉するってさ」
「へええ……」
バルトロメオが高い空を見てつぶやく。
「俺とユァンみたいだな」
「なんでまた」
どうしてもイチョウに似たいらしい彼の発言に、ユァンはちょっと笑ってしまった。けれどもバルトロメオは、はにかむような笑顔で続ける。
「俺ははるばる遠くから来て、ここでユァンに出会った」
「え、でも……僕は雄で、やっぱり実をつけないよ」
彼の言わんとすることがようやく分かり、ユァンはなんだか恥ずかしくなってしまった。ポケットの中の銀杏を触りながらうつむく。するとバルトロメオに髪を撫でられた。
「結果はどうあれ、その過程に意味があるんじゃないのか?」
「過程って……」
閨 でのことだろうか。そう思って赤くなっていると、今度はバルトロメオの方がプッと吹き出す。
「違う、出会えてよかったってこと!」
「あっ……」
「もちろんそっちもすごく有意義だよな。おかげでユァンのこんな顔が見られるわけだし」
年上の修道士はニヤニヤ笑っていた。
「……っていうか山羊たち、全員いるかー?」
「一頭、二頭……あー、全然足りない。たぶん先頭集団がどっかいった。そのうち戻ってくるだろうけど」
ユァンはため息をつく。
「いつもと違う散歩コースではしゃいでるのか」
バルトロメオが呆れ顔で言うけれど、はしゃいでいるのは自分たちも一緒だ。
きれいに色づいたイチョウと、それから、実りかけた恋に――。
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