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一、運命的な失言③

その夜は、20歳年上の未亡人シンシアの家に泊まった。 理由は酒場から一番近いのと、娘さんがそろそろ食べごろの18歳になるのではやく唾を付けておきたかったから。 「っやべー。飲み過ぎたのか、ちんこ起たない。あれ、ない?」 「もう。酔いすぎ。無かったらアンタに価値無くなるんだからね」 「そうだった。うーごめん。エッチは朝しようね」 美しい俺の買い主である未亡人の頬にキスすると、一緒の布団でぬくぬく眠った。 家の婆はニートの俺にカンカンで帰っても、目に付いたもので殴られるので帰りたくない。 この前はじいちゃんの昔戦場で使っていた槍でつつき回された。 それなら、村の女性たちは皆親切なんだから一日ずつ交代で泊まって行った方が良い。 俺はこれで1年近く生き抜いているのだから。 「ねー。そういえば酒場のバーテンダーに超色男いなかった?」 「……何それ。こんなイイ男を目の前に、他の男の話?」 「だってアンタって自分よりイイ男見ると、虫をみるような腐った目で相手をみるじゃない。リーくんとか」 「リーは一応幼馴染みだからそこまで酷い目で見ていない。ってか、そんな男いなかったぞ」 悔しくて、シンシアの胸に顔を埋めながら答える。 ああ、これ最高。 「そうなの? なんか2、3日前から隣村から流れてきた人でさ。森の泉に触手モンスターが出たからしばらく滞在するって言ってたのに」 「ねー、まだ違う男の話するの? そんな口、俺の暴走息子で塞いじゃうぞー」 甘えた声で胸をパフパフしながら言うと、憐れんだため息を吐かれた。 「違うのよねえ。経験の差っていうか、生きてきた歳の分だけ落ちついてるみたいな、人。こう、……庇護欲をそそられる傷ついた目、みたいな」 「……ほんと、もう止めて」 えいっと暴走野郎で口を塞ぐと、ちいさくくぐもった声を漏らす。 世界一イケメンな俺の前で、おっさんの話は止めてほしい。 明日からリーが居ないこの村は、俺の天下なのだから。 そんなイチャイチャした夜を過ごしたその日、空は曇ってゴロゴロ雷が鳴っていた。 雨は降らなかったものの、いつ振りだしてもおかしくないような、まるで夜のように分厚い雨雲が空を覆っていた。 そんな夜みたいな朝。 シンシアの家のドアが叩かれた。 トン……トン……と、不気味に静かに。 「むー。シンシアー、客―」 ツンツンと胸を突くと、叩かれて布団を頭から被られた。 「化粧落としてるんだから出れないでしょ。グー頼んだわよ」 「……スッピンだって可愛いじゃん。別人みたいで」 目の大きさが半分以下になるし、真っ赤な唇が薄いピンク色になるし、別人を抱くみたいで可愛いのに。 「はーい。誰ですかー」 欠伸しながらドアの前で尋ねると、向こう側から音が止んだ。 「今すぐこの家を壊されたくないならば開けろ」 「はいはーい。何? 押し売りだったら俺、ヒモだから金ないよー」 ガチャリと開けた瞬間、大きな影が俺を襲う。 見上げたと同時に、空を稲妻が走った。 「昨日、抱いて頂いた魔王ですが」

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