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一、運命的な失言④
「先日抱いて頂いた魔王ですが」
俺の前に現れたその男は、とても美しくとても強いオーラを放ちながら、世界一死んだ目をして俺を見下ろしていた。
なんだろう。
俺なんて、鼻くそに思えるほど、土下座したくなるぐらいイケメンオーラが出てるんだけど、目に生気が感じられない。
どろんとした目で、死んでる。この目は間違いなく死んでる。
持ったいねえ。生気があったら、世界中の女のヒモになれるレベルだろ、こいつ。
悔しいとさえ思えないほど、圧倒的に敗北した俺は、その死んだ目の男をまじまじと見つめた。
すると、整った唇が動いた。
「酒場でお前が俺を抱いたと言っていたので、抱いたんだろ」
「えっと」
昨日、酒場にいた奴らなら確かに俺が冗談でそれを言ったのは知ってるかもしれない。
でも。
「どんな風に抱いたのか、俺は覚えていないのでもう一度抱いてみろ」
「ゴメンナサイ。カエッテクダサイ」
こいつ、頭おかしいんじゃねえか。
自称魔王なのか。
それとも俺に抱いてほしいホモ?
「お前、――俺を疑っているな」
死んだ目の男に、不穏なオーラが集中される。
なんだろう。天候さえ悪化してしまったように見える。
さっきから、雨のように稲妻が走っているのだ。
こんな稲妻雨の中、歩いたら一発で死んでしまう。
「……久しぶりに現れた勇者を、触手モンスターであんなことやこんなこと、はたまた、あはんうふんと苛めてやろうと思って来てみれば、……お前は俺を侮辱した」
「だからゴメンナサイ、モウシマセン。って謝ってるじゃん」
「謝るときだけ棒読みだ」
こいつ、目が死んでるくせにこまかい。
「ふむ。魔王の俺に偉そうだが、もしやお前は淫魔か?」
「ぶっ」
思わず鼻水が飛び出そうなほど吹いた。
イケメンの俺が鼻水とかありえない。
俺は女の前ではトイレさえいかないほど徹底して、女に夢を与えて寝床を手に入れてるのに。
「そう言えば、淫魔だ。この女みたいに長い睫毛、俺を美味しく舐めて、吸いついてくれそうな艶やかな唇、そして乱れたら可愛い声をあげそうな低くてセクシーな声」
パードン?
「ねー、グー、お客誰なの?」
眠たそうな目を擦りながら、シンシアがやってくる。
「お、おおおかん! オカンだから! 紅茶入れて部屋持って行くから来ないで!」
「オカン? 貴方、母親でも女性だからってお母様って呼んでなかった?」
「お母様だから!!」
必死に叫んだ。
稲妻に掻き消されないように、愛を囁くかのごとく叫んだ。
シンシアは納得したのか、まだ眠たかったのか、部屋に戻ってくれた。
「俺は淫魔ではないが、村中の女性の癒し、グイード・アロンソ・デ・メネセスだ。女性ならば気軽にグーだのグイーだの呼んでくれて構わない」
「なぜ、お前は名前は格好良いんだ」
不思議そうに自称魔王は首を傾げるが、それはお前がイケメンすぎだからだ。
俺は一応、この村を収める領主の次男坊だからニートやヒモしてても暮らしていける上に、お前が来るまではイケメンポジションだったんだ。
「さて。今からシンシアに一晩の宿のお礼に愛し合うので出ていってもらえるかな?」
「……お前は今から俺を抱くんじゃないのか」
こんな男、抱けるわけない。
「俺、男には起たないと思う」
ノースタンダップ。
「では俺が抱いてやろう。お前がノースタンダップでも問題ない」
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