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一、運命的な失言⑥
「やはり一度抱かれたからか、お互いの気持ちが分かるのだな」
抱いてねえし。こいつ頭おかしいし。
でも何故か、さっきまで振っていた稲妻がぴたりと止んでいる。
「因みにだな、俺の機嫌を損なうと、そこの森で待機中の一億メートルの触手たちが一斉に村を襲うから気を付けろよ」
「触手って一匹とかで数えなくてメートルなのかよ」
怖え。隣に並んで歩くのも怖い。
てか、こいつのオーラマジやばい。
レベルいくつなんだよ。俺、遊び人レベルなら称号テクニシャン貰ってるけど、絶対こいつとか倒せない自信しかねえよ。
本当にこんなオーラの魔王(まだ本当に魔王とは信じられないけど)に、リーは勝てる勇者の力を持っているのか。
疑問に思っていたら、前から白馬が近づいてくるのが見えた。
「グー! 来てくれたのかっ」
白馬に乗ったリーが、俺達の前に現れる。
「なんで魔王の俺を白馬の上から見下そうとしてんだ、あの小僧」
第一印象最悪じゃんか。
やばい、来る。一億メートルの触手、来ちゃう。
「紹介します。こいつが村一番のイケメンであり、伝説の勇者の力を持つ、リカルドですぅ。見てください、なんなら上半身脱がしますんで!」
慌てて馬からリーを下ろすと、リーはきょとんと不思議そうな顔をした後、俺と自称魔王を交互に見る。
「グー、この酒場のバーテンダーさんと知り合いだったの?」
「お前、こいつのこと酒場から把握してたのかよ」
侮れない、伝説の勇者。
「だってこのひと、とても格好良いのに目が笑ってないって言うか、切ないって言うか、いつも傷ついた顔してたから」
それは目が死んでいるからだと思います。
「でもグーと一緒なら良かった。きっとまた心から笑えるときが来ますよ。グーと一緒に居たら、難しい事考えるのが馬鹿らしくなるって言うか、世界って平和だなあって思えてくるし」
「お前、色々酷いな」
だが問題はそうじゃない。
問題なのは、自称魔王のリーへの興味度なんだ。
ちらりと自称魔王を見ると、イラストの解像度が荒くなったような、すっごくつまらなそうな魔王がそこに居た。
「つまらない……」
「えええ」
「良い人オーラ過ぎてつまらん。こいつ、可愛い喘ぎ声しかあげなさそう。アヘ顔とかしなさそうじゃん。『あん』とか『やっ』とか『ぁ……ャ……』とかあとやと小文字しか使わなさそう」
残念ですか、俺もアヘ顔しないしその二文字しか使わないから!
「でも、そんな良い人をヨゴスノモ楽シイデスヨ!」
「棒読みだ。そんな風に思ってないだろ」
自称魔王は拗ねた。
次の選択はどうするか。
「おい、くそリー、今から土下座してM字開脚して、抱いて下さいって懇願しろ」
「えええええええ!?」
飛びあがってリーが驚いていたけれど、俺の貞操を守るためならば致し方ない。
ここで犠牲になってもらう。
「あの方は、自殺志願者だ。それぐらいのサービスしないと死ぬ。いますぐ死ぬ。お前は勇者なのに弱き者を見殺しにするような最低ウンコ野郎なのか」
「え!」
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