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一、運命的な失言⑪
「俺はある。――この努力を知らない身体に俺を刻んで俺色に染めるのも面白い」
長い爪が腹を這う。
少しでも魔王が爪に力を込めれば、俺なんて簡単に血が流れてしまう。
そんなはっきりした力関係の元、俺は覚悟を決めて目を閉じる。
「…グーと言ったな。お前、俺にキスしてみろ」
「はあ!? 無理! 俺の薔薇の様な唇は99歳までの美女たちの為に――」
は?
言葉では拒絶しているのに、俺は自分から魔王の首に抱きついていた。
「99歳の美女がどうした?」
ん?と不思議そうに首を傾げる。
悔しくて、身体が震えているのが分かった。
「身体は指輪で操れるが、心までは操れない。――その意味が分かるか、ぐー」
唇すれすれで、魔王は俺にそう言う。
悲しそうな、――今にも泣き出しそうな顔。
そうか。
いくら世界最強の魔王でも、人の心までは支配できねえんだ。
可哀相に。ちょっとは憐れんでやろうかと思ったのに、ただ重ねただけの唇は、ピリリと甘く俺を痺れさせた。
「その意味はな、グー」
抵抗している方が、征服欲をかきたてるからだ。
「俺の唇に舌を入れてキスしろ」
「はあ? そんなエロゲ展開なんてな」
しねえよ、と痛かったのに、ベットの上に膝を立てて座った魔王に、よろよろ縋りつく。
「欲しくなるぞ。俺とキスしたら、その指輪のおかげで甘く感じる上に、魔力で腹が満たされる」
「……くそ」
声援が外で鳴り響く中、俺は魔王の膝に手を置いて、抗うこともできずに顔を近づける。
満足そうに待ち構えている魔王は薄く唇を開くと、さきほど感じたピリピリと甘く疼く衝動が全身から発せられる。
欲しい。
身体はその甘さを覚えてしまい、疼いている。
俺を弄ぶように唇が閉じられたので、俺は舌でこじ開け舌を入れた。
「んんっ」
やべえ。
すげえ甘い。
99歳以下の全ての女性としてきたキスじゃなくて偽りの魔法で感じさせられた甘さ。
なのに欲しくなる。
「てめえ、魔力でしか感じさせれねえなんて最悪だな。下手くそなの?」
「魔王に向かって、よくもまあそんな事を言えるな」
「だってまじマグロだし。ソレに――」
ちゅっと音を立てて唇を擦りつけては離す。
「それに」
ちゅ、ちゅっと唇を何度も離す。
「それに、ヤべえくそ甘い」
「……楽しそうだな」
「魔力ってこんなに美味しいんだ。へえ」
レベル1の俺がこんな骨抜きになってしまうような、甘い魔力に身体が震えている。
「やべえ、俺の息子、超レベルアップ」
流石遊び人、最高称号テクニシャンの俺。
自分の唇を指先でなぞると、まるで指で掻き回すような快感が襲い、背中を弓なりにしならせる。
「さっきの威勢はどうした? 俺がマグロだとかどうとか」
「マグロでいいよ。俺はあんたの魔力だけ貰えればそれでいい」
麻薬だ。
俺に依存性を持たせる魔力の、麻薬。
欲しい。
「待て。止めた。俺は萎えた」
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