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三、まさか、最初の仲間が魔王だとは。⑧
「なんか身体が熱いんだけど、理由分かる?」
起き上がった俺は、魔王を探す。
だが俺が寝ていた部屋には魔王はいない。
そして深刻そうな顔でリーが俺に近づくと、両肩に手を置いて苦しげに言った。
「魔王は、初夜に過ごす契りの部屋でお前を待ってる」
「はあ!?」
「レイニン魔道士の、呪いがお前に振りかかってしまったんだ」
「え、あのさっきのバイブが頭に当たったとき?」
俺がレイニンちゃんを見ると、レイニンちゃんは頷いた。
「女体化しちゃう魔法が、貴方にかかってしまったの。あと数時間後に貴方は女体化しちゃうわ」
「まじで? 俺が女?」
ジャンルを変えなければいけないぐらい大事件だ。
やべえ、俺が女体化したらめっちゃ美人だろう。
「女体化しちゃえば魔王は貴方に興味が無くなるでしょう。だからこの魔法は解かない方がいいと思うの。私の女体化魔法は、月に数日だけだし」
「ならいいよ。このままで」
「駄目だよ! 魔王は君を戻したいって、戻さなかったらこの城から壊して世界を破滅させるって」
「えーっと」
俺に世界の命運とかかけないでほしい。
女の体になるのは確かに困るけどさ、数日だし。
なんで寝室でスタンバイoKの目が死んでる魔王にのこのこ食べられに行かないといけないんだ。
俺がそう思っていたのが伝わったのか、リーの目がメラメラと燃えだした。
「グー!」
「なんだよ」
胸倉を掴まれ、ブンブンと振られた。
「愛し合ってるって言ってたじゃないか!」
(脅迫されて、な)
「待ってる恋人に恥をかかせるなんて最低だ!」
(恋人じゃねえ)
「早く抱いてあげなよ!」
「はあ!?」
俺が魔王を抱く?
リーの正義感に燃える顔を見て気が付いた。
そうか。
此処に居るやつらは、俺が魔王を抱いたって思ってる奴らなのか。
しかも恋人。
だったら寝室ぐらい用意するのも頷ける。
「あの、誤解なんだけど」
200年を生きるとされているレイニンちゃんを見る。
が、レイニンちゃんはきょとんとして何で俺が行かないのか不思議そうだ。
200年前の魔王は、攻だって初代のメンバーにも言ってないのか?
「お前が行かないなら、レイニン魔道士が行くって言ってるぞ」
「え、いいよ」
「ガチムチに私が戻って行っていいの? 魔王を満足させちゃってもいいの!?」
「うん、いいよ」
ただレイニンちゃんが、男の娘ルックスからガチムチな雄に戻ったら、目の保養じゃなくなるだけだ。
「……グー」
「魔王と同じレベルで最低ね」
唖然としている二人と、眠たそうにしているユージン王子。
そんな中、バタバタと兵士が俺たちがいる王宮の間に入ってくる。
兵士は息を整えながら、ユージン王子の背の窓を指差した。
「モンスターです! モンスターが森に出現しましたっ」
「あら、嫌だ。退治しなきゃ。何匹?」
「わ、分かりません! 100本ぐらいかと」
「百本……」
嫌な予感がする俺に、兵士は唾を飛ばしながら大声で叫ぶ。
「触手です! 触手だけが土からボコボコ出てきてるのです!」
「ほほう。つまり魔王の怒りの権化ってことか」
ユージン王子が俺をちらりと見る。
するとリーもレイニンちゃんも俺を見た。
そして満場一致でこう言った。
「行け」
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