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三、まさか、最初の仲間が魔王だとは。⑩
魔王の瞳が大きく見開かれると、目の中心に猫の目のように細い月が浮かぶ。
数秒だったのに、俺は何時間も頭を押さえつけられるような圧力に、気付けば顎まで汗が垂れている。
「好きではない。愛してもない。この魔王が、この世界最強の魔王が、なぜ勇者を好きにならないといけない」
ぶつぶつと早口で言った後、長い爪で喉を引っ掻く。
落ち着きが無い。
「勇者が死んでから、毎晩夢見るのは、あいつを犯せなかったせいだ。あいつを触手でぐちょぐちょに解した後、壊れるまで何度も何度も奥を穿つ。俺に服従するまで何度も」
ベッドの上で微かに揺れた魔王のせいで、ギシっと軋む音がして俺は一歩後ずさる。
すると嬉しそうにその長い爪の生えた手を俺に伸ばす。
「200年経ってもあいつは俺の玩具。でもグー、貴様は違う。すぐ死んでしまう人間でも、死ぬまで愛して傍に置いてやる。だから、――来い」
逆らえない。
言われるままベッドに進み、魔王の手を取る。
冷たい、凍えるような氷の手。
200年も忘れず、オカズにしちゃうなんて、その執着って。
結ばれなかったからではないのか。
「キスしろ。呪いを解いてやるぞ」
言われるがまま、薄く口を開ける。
ベッドに片足を乗せると、さらに軋み音が鳴る。
甘い香りが漂ってきて、お香が窓辺に置かれているのが見えた。
「……俺は勇者の代わりかあ」
ギリギリ、唇が触れるか触れないかで、ぽろりと本音が零れてしまった。
「女性たちの心や体の寂しい部分を埋めて、生きてきた。から、別に魔王の寂しい心を埋めてやらないこともないけどさあ……」
「グー?」
「このままじゃ、また200年ぐらい満たされないんじゃない? 触手や指輪の呪いで俺を従えても、きっとあんたは満たされない」
今まで上は99歳、下は18歳の女の子たちの満たされない部分を見つけてきた俺が、魔王の隙間を突く。
小さな隙間でもいい。俺が入りやすい大きさまで広げてもいいしね。
「心から愛す相手と結ばれないと、あんた、きっとこの先満たされないよ」
それは俺じゃない。俺じゃないから俺を今すぐ解放するんだ。
テクニシャンの名は伊達じゃない。
無い頭フルスルットルでこの場を逃げようと、足掻く。
「そんな悩めるあなたは、今すぐ俺を解放し愛するはずだった勇者の代わりのリーの元へ行き、本物の愛を知るのです。さあ、俺の指輪の呪いを解いて、満たされる愛を探しなさい。それは絶対に俺じゃないのですよ」
気分は、懺悔を聞く美しい神父。
魔王の罪の解放と見せかけて自分の自由を手に入れてみせる。
「……いや、いい」
魔王は少し考えてから、首をふった。
「いやいやいや、いいっってだめです。さあ、はやく」
「俺は満たされたい。……その相手は勇者じゃ駄目じゃないのか」
「勇者しかいません!」
ノーライフ! ノー勇者!
「俺に意見した生き物は、お前が初めてだよ」
嘘だ。絶対勇者だっていっぱい意見したはずだ。どうせパンツ欲しいとか思ってて聞いてなかっただけだ。
「俺は益々お前に興味を持った。これが愛か恋かはまだわからない。分からないから――」
美形な王子の顔が近づくと、ぺろりと俺の唇を舐めた。
ねっとりと蛇が這うような感触なのに、足や腰がしなりそうなほど甘い電流が走る。
「分からないから、やはりお前を良く知ろう」
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