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四、結婚式してみようかな。⑤
「えー、俺の膝は全女性のモノで……」
結構本気で嫌だったのだけど、指輪の効力は継続中なのですぐに俺は隣に座った。
魔王はそのまま断りもなしに、俺の磁器のような美しい膝に頭を乗せた。
見下ろす魔王は、何だか急に恐怖が消えて普通の、ただの一人の人間のように見えた。
こいつが、本当に世界を滅ぼしてしまうような恐ろしい奴で、強い四天王を傘下に置いて、エロい触手を扱うのか、想像が出来ない。
「あのう、魔王さん」
「結婚したら、ローと呼べよ」
「あ、はい。あのう、魔王さん」
「なんだ?」
目を閉じた魔王に、恐る恐る尋ねる。
「髪の毛撫でてみてもいいでしょうか?」
急に手を伸ばしてみたくなっただけなんだけど、魔王は片目を少しだけ開ける。
「良かろう。勇者にも触らせたことのない名誉なことだぞ」
「あざーっす」
触ってくれなかっただけだと思う、と言いそうになった言葉を飲み込み触る。
サラサラで、冷たいと感じるほど手で掬ってもはらりと落ちてしまうような溶けてしまいそうに一本いっぽんが柔らかい。
「すげー、絹みたい!」
やわらかく、わたあめみたいに消えていく。
確かに世界で俺だけしかこの気持ちよさは知らないのかもしれない。
「グー」
「なんですか。もう少しだけ触らせといてくださいね」
やわやわと触っていると、魔王は俺の腕を掴んだ。
「お前の笑顔、悪くない」
「え、あ、そうっすか。美形でしょ」
気付いたら、俺と魔王の膝枕に気付いた兵士たちが真っ赤な顔でそそくさと通り過ぎて行く。
俺の護衛は見たくもないのに行ったり来たりしながら遠巻きに俺たちを見ていた。
「俺を見ると怖がるか、蔑むか……怯えるか、涎を垂らしながら足を開く奴らしか今までいなかった」
けっこういろんな人がいますねーっと言いたくて飲み込んだ。
それほど、死んだ目のくせに真面目な顔で言っていたから。
「そんな風に、俺と対等な立場で笑ってくれたり、怯えないで俺を見てくれるのは、お前しか知らない」
「……本当に、俺だけっすか?」
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