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四、結婚式してみようかな。⑫
交換日記……。
そんな単語、小学生以来久しぶりに聞いたぞ。
けれど、俺をマリッジブルーから守ると言う使命感に燃えているリーの目は某修造のようだった。
「俺が掻いたら二人に届けることにしますから。じゃあ、グーが書けたら渡しに来ますんで」
有無を言わさず俺を抱き抱えると、白馬に跨り、リーは走り出した。
抱き抱えられながらも、何故か俺はリーの熱い胸板にときめくのであった。
乗馬場へ到着するころには、リバースしそうなほど酔っていたけれど。
ついてすぐ、乗馬場の端にある馬の糞の匂いでさらにリバースしかけたが、近づいてくる美女によって下半身は回復した。
というか、この城の外にはやはり美女は存在してるんだ。
嬉しくなって見上げたら、その美女はレイニンちゃんだったので死にたい。
「さっき聞いてたけど、結婚式を控えた貴方と魔王が交換日記するんですって?」
驚いてるけど、俺だって驚いてる。
が、セクハラされるよりは、触れられない交換日記の方がましかも。
「そうです。式まではやはり清い関係が美しいです」
リーの真面目すぎな性格がこんな時に活用できるとは思わなかった。
「ふーん。いいわねえ。絶対楽しいわよ。私、香をしたためた紙いっぱい持ってるからあげるわ。魔王にもガチムチな男の姿に戻って説得してきてあげる」
「あざーっす」
が、レイニンちゃんがちらりと俺を見た後、爪先から頭のてっぺんまでまじまじと見た後、視線をずらした。
「何?」
「あとで少しお話があるから、二人ではなしましょうね。じゃ」
そう言うと、そそくさと去っていく。
けれど俺は、途端に二人っきりになってしまって胸をときめかせてしまったのだった。
いやいやいや、たしかに勇者の妻なら、ヒモ生活より楽だし裕福だろうけど、まずこいつは女無理だし。
なんで俺と同じ竿と玉を持っている奴にときめくんだ。
「グイード君、一瞬で帰されたけど魔王に会って来たわよ」
束の間の二人っきりを壊され、複雑なままレイニンちゃんを見た。
「ほら、早速魔王から手紙」
この短時間で何を書いたのか気になったけど、その手紙がうねうね動いているのを見て、そっとリーの背中に隠れたのだった。
「さすが、魔王だ。季節の触手も添えてる」
「なんだよ季節の触手って」
昔の文みたいに、季節の花を手折って文と共に渡す文化か。
「まあ、見てみなよ」
リーに見せられた魔王の文を見て、俺は笑顔のまま固まった。
「なんか魔王の手紙、読めない字なんだけど」
「ああ、触手語だよ。授業で習ったでしょ。魔界の暗号文を解くために」
習った記憶はないが、リーは知ってるらしい。
大きく溜息を吐いた後、俺に教えてくれた。
「短歌や和歌みたいに、触手のしなりぐあいで気持ちを添える触手語は、ほぼ魔界にいるモノたちは全員読めるよ。触手のしなり具合を見て相手の文章に恋しなくちゃ。あとお香や花を添えるようなもんだよ、季節の触手を添えることは」
「……だって季節の触手がなんか、動いてるんだ。これなんて書いてるの?」
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