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四、結婚式してみようかな。⑬
グロテスクに、ウィンウィン動く触手と手紙を交互に見ながらリーは読みあげる。
「『俺のナニと同じくらいの触手を添えておく。さみしくなったら自分ではなく、その触手で慰めろ』だって」
「季節の触手なんて関係ねえ、下ネタじゃねえか!」
俺は触手を床にたたきつけた。経験値が1上がった。大人の玩具を手に入れた。
テクニシャンのレベルが1上がった。
「あら、恋人が一人で身体を慰める惨めな思いをさせたくないっていう、魔王らしい歪んだ愛情表現じゃない」
恋人どころか、未だにエロい展開はあっても最後までシたことはありませんよ。
「グーも魔王に返信しないと。魔王はこっちの言語分かるだろうから触手語じゃなくてもいいだろうけど」
「えー……リー、代筆してよ」
「恋文の代筆なんていやだよ」
「じゃあお手本で」
お手本と言いつつ、それをそのまま送ってやるけど。
「えー、えーっと、うーん。じゃあグーに触手語を学んでほしいからこっちで書くよ」
リーは何を思ったか、触手語でお手本を書いてくれた。
『~~ノノ))((~-』
リーが書いた触手語は、ミミズがうごめいているような落書きにしか見えなかった。
「……なんて書いてるの?」
『触手はこんなにしなるのに、俺の心は柔軟になれない。貴方に会えないだけで、手紙を持つ手が止まらず、思いが溢れて止まらないのです』
「長! こんな一文で、こんな長いのか!」
びっくりした。触手語、奥が深い。
「まあ、いいんじゃない。これに、季節の花は何を送ろうか」
レイニンちゃんが楽しそうに、牧場内の草や木を見渡す。
いやあ……この文を送ったら、俺がローを好きだと勘違いされちゃうだろ。
「あ、いいものがあった」
「グー?」
俺は馬の尻尾の毛を一本引き抜くと、手紙に一言添えて封筒にいれた。
『寂しくならないよう、俺の下の毛を送ります』
この後、DNA検査した魔王から遠隔操作の触手でめちゃくちゃぼこぼこにされた。
***
『いいか? 馬の尻尾の毛は楽器の弓やお前の尻を叩く鞭に使われるほど高級で、なおかつ硬い。お前の下半身の茂みは鞭のように硬いのか、今一度設定を考え直せ』
「……はい。すんません」
『まあ、電話越しの自慰で許してやる。ほれ、足を広げろ』
「……いやです(馬鹿じゃないの)」
『馬鹿ではない』
だから、なんで心の音声まで聞いてくるんだ。
はあ、と深いため息ごとベッドに倒れ込む。
すると、ガチムチバージョンのレイニンさんが窓から顔を出した。
「自慰って聞こえたんだけど」
「聞かないでください。あと、貴方は女体化の方が見目麗しいので女体化しててください」
「えー、あれ結構魔力喰うんだよね。てか、今、誰と話してるの?」
窓から乗り込んだレイニンさんは、俺の手に持っている触手を見て首を傾げる。
「これ、コードレス触手。携帯電話みたいに、この鈴口をパクパクして相手の声が聞こえてくるんです」
「うわ、最低だね」
最低ですよ。
けれど、リーは、文通から電話に代わって、俺とローの距離が縮まったと喜んでいる。
「ていうか、魔王って君のこと好きじゃないんじゃない?」
レイニンさんは、ローに聞こえないよう触手の鈴口に指を入れて俺だけに囁いた。
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