73 / 86

五、魔王暗殺計画⑱

「魔王が怒るのも分かる。止めるんだ、グー」 「でも、身体が疼いちまうんだよ。女の体になった途端、リーの雄臭い匂いがやばくて」 「お、おす!?」 真っ赤になって慌てふためく世界最強の勇者、すげえいい。 とても、美味しそうでございます。 「なあ、リーも溜まってるだろ? 全然、一ミリも女がいねえんだから。大丈夫、先っちょだけ、な」 「ぐ、グー」 空は槍か弓か雨か分からない勢いだし、常に雷は降ってるし、今にも世界が割れそうだけど、ちょっとだけ理性がきれた俺にはちょうどいい。 だって、俺は村中の女を抱いた男だぜ。 性欲にたいしては人より、考え方がフラットなんだよ。 仕方ねえよな。 頷いていたら、洞窟がふるふると震えだしみしみしと音が地鳴りがする。 「だめだ。こ、これを着ろ。グー」 ファサっとマントが俺を包む。 視線を逸らしたリーが、おれの身体をマントで隠すと首を振る。 「魔王と何があったか知らないが、自暴自棄になったらダメだ」 「なってないし」 マントを脱ごうとしたら、ひゅんと頬に痛みが走った。 やがてじんじんとその痛みが広がっていく。 驚いて顔を上げたら、手を押さえて泣きだしそうなリーの姿があった。 「俺を殴ったのか。この綺麗な顔を……」 頬を抑えると、ヒリヒリ痛む。 この綺麗な顔を殴られたことに呆然とした。 ドSな女性とさえ、プレイ中は鞭で叩かれたことないのに。 「……グーは苦しいのかもしれないが、魔王はお前が俺に抱かれたと思ったらきっと狂ってしまうよ」 「は。魔王はな、俺のことなんか全く一ミリも好きじゃねえよ。俺じゃなくて、リーの方が見た目も身体も性格もタイプなんだよ」 「俺が?」 首を傾げるリーの綺麗な顔の鼻に指を突っ込んでやりたい。 「俺は魔王の事を何も知らないが、フレゼンタもいるし同性の時点で、恋とか愛とかに発展する気はない。その、グーは、俺にヤキモチ妬いているのか?」 今度は俺が、リーを思いっきり殴る番だった。 そのイケメンの顔を、めっちゃくちゃに殴って不細工にしてやる――。 そう思ったのに俺のレベルでは、ポコンと間抜けな音とともにダメージが1しか与えられなかった。 「い、痛って――!」 「だ、大丈夫か、グー。ご、ごめん、レベルMAXで」 「うるせー! あのなあ、俺は魔王にこの指輪をはめられて、自由なんてねえし、男同士で結婚とか寒いし! なんでお前にヤキモチ妬かないといけないんだよ! ありえねえよー!」 「え、でも、ほら、なんでっていうか、ほら」 「装備を全部外して殴らせろ――!」 もう一回、弱々しい俺のパンチをお見舞いしようとしたら、ふわりとリーの雄臭い匂いに包まれた。 抱き締められていると理解したのは、リーの笑い声が聞こえてきたからだ。 「はは。グーの怒り方、女の子みたい。や、今は女の子なのかな」 クスクスと笑って、俺をマントで包んで抱き締める。

ともだちにシェアしよう!