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五、魔王暗殺計画⑱
「魔王が怒るのも分かる。止めるんだ、グー」
「でも、身体が疼いちまうんだよ。女の体になった途端、リーの雄臭い匂いがやばくて」
「お、おす!?」
真っ赤になって慌てふためく世界最強の勇者、すげえいい。
とても、美味しそうでございます。
「なあ、リーも溜まってるだろ? 全然、一ミリも女がいねえんだから。大丈夫、先っちょだけ、な」
「ぐ、グー」
空は槍か弓か雨か分からない勢いだし、常に雷は降ってるし、今にも世界が割れそうだけど、ちょっとだけ理性がきれた俺にはちょうどいい。
だって、俺は村中の女を抱いた男だぜ。
性欲にたいしては人より、考え方がフラットなんだよ。
仕方ねえよな。
頷いていたら、洞窟がふるふると震えだしみしみしと音が地鳴りがする。
「だめだ。こ、これを着ろ。グー」
ファサっとマントが俺を包む。
視線を逸らしたリーが、おれの身体をマントで隠すと首を振る。
「魔王と何があったか知らないが、自暴自棄になったらダメだ」
「なってないし」
マントを脱ごうとしたら、ひゅんと頬に痛みが走った。
やがてじんじんとその痛みが広がっていく。
驚いて顔を上げたら、手を押さえて泣きだしそうなリーの姿があった。
「俺を殴ったのか。この綺麗な顔を……」
頬を抑えると、ヒリヒリ痛む。
この綺麗な顔を殴られたことに呆然とした。
ドSな女性とさえ、プレイ中は鞭で叩かれたことないのに。
「……グーは苦しいのかもしれないが、魔王はお前が俺に抱かれたと思ったらきっと狂ってしまうよ」
「は。魔王はな、俺のことなんか全く一ミリも好きじゃねえよ。俺じゃなくて、リーの方が見た目も身体も性格もタイプなんだよ」
「俺が?」
首を傾げるリーの綺麗な顔の鼻に指を突っ込んでやりたい。
「俺は魔王の事を何も知らないが、フレゼンタもいるし同性の時点で、恋とか愛とかに発展する気はない。その、グーは、俺にヤキモチ妬いているのか?」
今度は俺が、リーを思いっきり殴る番だった。
そのイケメンの顔を、めっちゃくちゃに殴って不細工にしてやる――。
そう思ったのに俺のレベルでは、ポコンと間抜けな音とともにダメージが1しか与えられなかった。
「い、痛って――!」
「だ、大丈夫か、グー。ご、ごめん、レベルMAXで」
「うるせー! あのなあ、俺は魔王にこの指輪をはめられて、自由なんてねえし、男同士で結婚とか寒いし! なんでお前にヤキモチ妬かないといけないんだよ! ありえねえよー!」
「え、でも、ほら、なんでっていうか、ほら」
「装備を全部外して殴らせろ――!」
もう一回、弱々しい俺のパンチをお見舞いしようとしたら、ふわりとリーの雄臭い匂いに包まれた。
抱き締められていると理解したのは、リーの笑い声が聞こえてきたからだ。
「はは。グーの怒り方、女の子みたい。や、今は女の子なのかな」
クスクスと笑って、俺をマントで包んで抱き締める。
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