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五、魔王暗殺計画⑳
「わ、わー、こんな高い門、開けられるかなあ」
「本当にテイク2してんじゃねえよ。真面目か」
ツォーガネさんに気を使って、茶番をしようとしたリーを怒鳴りつつも、リーも指一本で扉を開けてしまった。
「触れるだけ魔力を奪われてしまう門です。この門を無傷で開けられるのは世界でも二人だけでしょう」
にこにことツォーガネさんが言うが、問題はそこじゃない。
別に魔王が来てくれたなら、それはそれでこのまま会えば良かったのに。
その方が――。
考え事をしながら門をくぐると、そこは暗黒の魔界が広がって――?
「おい、リー、魔界は授業で習ったんだろ?」
「はい。習いましたよ。触手が蔓延り、魔獣があちこちで不気味な雄たけびをあげ、モンスターがうろうろし、常に死臭がする暗黒の世界だと」
俺もリーにそう聞いていたのに、俺の目の前に広がる魔界は違っていた。
妖精や伝説の生き物である聖獣のペガサス、そして触手から花が咲き乱れ、空から甘い匂いも漂っている。
「ペガサスと妖精は、セイレーンの森から密漁してきました」
ツォーガネさんが得意げにそう言うと、妖精たちはびくびくと泣き出しそうな顔で空を飛んでいる。
「あの、木の陰に隠れている魔獣は?」
「ああ、あれは猫の顔が三つある、ニャロベロスです。肉食の魔界一のツンデレですが、グイード様に何かしたら殺されると怯えているのです」
「つまり、全部、魔王がグーを喜ばすために御もてなししてるってことですね」
「その通りです」
嘘だ。
どうみても面白がって聖獣や妖精を魔獣の餌にしているようにしか見えない。
「……可哀想だからさっさと妖精たちを戻してやれよ。密猟とかありえねえだろ」
「でも魔王様は、グイード様の為に……」
「可哀想だよね。おいで」
ツォーガネさんの言葉を遮り、リーが両手を広げるとペガサスや妖精がリーの胸に飛び込んだ。
「俺が門の外に逃がしてあげるよ。魔界の邪気で弱っちゃうよね。……こんなの許せない」
また指先で門を開けると、次々に美しい妖精たちが飛び立っていく。
ペガサスに至っては、不老不死の薬になると言われている角を削って、花びらに乗せるとリーに差し出す始末。
すげえ。生まれながらの勇者気質。
「あはは。角の粉もらっちゃった。これ、ペンダントに入れておこう。すごいキラキラしてて綺麗だなあ」
なぜか俺も吸いこまれて、リーに抱きついてしまった。
やば。
「グイード様。魔界での浮気は慎んだ方が宜しいですよ」
「う、浮気じゃない! 挿入以外は俺は浮気と認めない!」
つまり貫通式もまだの俺と魔王はそもそも夫婦でも恋人でもないのだ。
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