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六、浮気じゃなくて②
ギャェェェェ
「!?」
魔獣の断末魔みたいな声と共にエレベーターが開く。
すると、そこには『魔王の部屋』と分かりやすく書いた案内板と、歩くスペースがないってぐらいの宝箱が置いてあった。
これは、あれかな。
近道したせいで本当は城中に置いてあるはずの宝箱をここに集中させたのかな。
試しに一個開けてみると、高級魔道士の服だった。
魔法は使わないので、別のを、と開けると――バイブだった。
それはソッと締めてエレベータに投げつけた。
が、次の宝箱は、ナース服、次の服はビキニアーマー、次の服は葉っぱ一枚、次の服に至っては鞭。
「ろくなのねえな!」
しょうがねえから、ボロの服の上からビキニアーマーとはっぱを装着し、手には鞭と二個目のバイブを持ち、魔王の部屋をバイブで開けた。
「あっ」
「え?」
開けたそこには、宝箱に今にも際どいボンテージ服を入れようとしている魔王の姿があった。
「こ、これはツォーガネの趣味だ!」
「え、人のせいにするの?」
「本当だ。疑うなら、襲うぞ」
少し慌てた魔王を見て、呆然とする。
……こんなキャラだったっけ?
「分かった。納得しとく」
「ああ」
急に現れた静寂。
なんか、えっと……。
魔王と俺って、お口であんなことする前ってどんな風に会話してたっけ?
いつも向こうの意味分からない言葉に振りまわされて。
「……甘い言葉」
「ん?」
「ツォーガネに甘い言葉を吐けと言われて、砂糖しか浮かばないが、……グー」
死んだ目が、輝いてる。
少しだけ光りがさしているように見えた。
「お前から会いに来てくれたのは、悪くない。――俺も会いたかった」
「え、えー!?」
それ、めっちゃ甘い言葉じゃない?
何を魔王が言っちゃってるの。
「……で、でも、魔王はどうせ、勇者のことも」
「グー、これを見ろ」
魔王が取りだしたのは、ジップロッグに入った黒いパンツだった。
白い糸で『勇者』と書いている。
「それ……」
「初代勇者のパンツだ」
脱ぎたてパンツを、200年も……。
衛生面でも、なんでジップロッグなの。
魔法でクリスタルの中に時間ごと閉じ込めるとか、格好良くできないの。
まあパンツの時点で格好良くないけど。
……あ。
閉じ込めるじゃなくて触ったり身近に感じたいとか?
そう考えると、あの不真面目なパンツが胸を抉る。
「これは、俺の為なんかに命を投げ出して封印した勇者に、敬意といやらしい気持ちを込めてずっと取っておいたが」
……いやらしい気持ち。
「もう、いい。お前がいればいいんだ」
手のひらに浮かばせると、簡単な火の魔法で、その200年ずっと大切にしていた下着を燃やしてしまった。
今しがた、大切にしてるって言ってたじゃないか。
「ろ、ロー」
「俺は、世界一強く、世界一死にたいし、世界一退屈な200年を生きてきた自信がある」
「……」
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