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六、浮気じゃなくて⑤
「さて、えらべ。今ここで」
ローの死んだ目が、なんだか怖い。
「俺の求婚を断り、リーを選んだ場合、リカルドを殺し世界を破滅したのち、お前を俺の腕の中に捉える」
「えーっと、ローを選んだら?」
言うことがいちいち怖いんだけど、一応もう一つのルートを聞く。
「簡単だ。『こうして世界は救われ、魔王とグーは幸せに暮らしました』だ」
まじか。
この人、本当にそんな事、考えてるの?
ローの顔を覗きこむ。
すると死んだ目が悲しく揺れた。俺はその目が見たく無かった。
俺はその悲しい目の先の答えを知りたくてここまで来たんだった。
「ロー……」
「一緒に世界を支配しよう」
それは遠慮したい。
けれど、そんな馬鹿な発言も流せるようにはなりたい。
隣に並ぶなら。
魔王の、黒くてじめっとした服の袖を掴んで、覚悟を決める。
「じゃあ、結婚しちゃおうか」
「……あ?」
「俺とロー。結婚」
「……ほ」
ほ?
ローはそのひと言後よろけてベッドの枕に顔を突っ込むと、その枕を持ったまま起き上がり、左右に思いっきり引き裂いた。
「おおおおおおお!」
「え、あの、ロー?」
「説明致しましょう」
窓から侵入してきたツォーガネさんが、ベッドメイキングをしながら優しく俺を見る。
「魔王様は生まれてこの方、求められたことばかりで求めたことは少なく、しかも両想いは初めてのことです。お赤飯をまたご用意しなくてはなりません」
「へ、へえ……」
「今まで散々女性と寝ておられたグイード様が、魔王様の為に抱かれるなんて、素敵ですね。ベッドに薔薇の花弁を散らせて置きました」
「え、俺が抱かれる?」
「両想いになったのですから、当然魔王様を受け入れるのでしょう」
「……」
えっと。
今しがた、気持ちは魔王を受けとめたんだけど、いきなり魔王のでかくて顎が外れそうなあれを、受け入れろとちょっと。
「しばらく100階から上は人払いだ」
「畏まりました」
「うるさかったら50階まで退避しろ」
えええ、俺そんな喘ぐの決定なの?
まじで?
「あの魔王……」
「ロー、だろ」
ローは少しだけ目を細める。俺の顔を見る、というよりも周りを警戒するといった感じだ。
「昔、自分が嫌いだった」
気配が消えたのを確認したのか、ローがそう言う。
俺に手を伸ばす。それは、助けてと差し伸べられない手を探す子供みたいで不安定で。
俺はその手を両手でとってしまった。
「嫌いというか、少し運動しないとどんどん力があふれてしまって太ってしまうような。魔力が枯れないんだ。心が疲れても体が疲れてくれない。死にたいのに、自分では絶対死ねない。長い、長い年月、俺は心が疲れていたんだと思う」
お、おお……!
心が弱っているローは、珍しい。
弱音を吐くローは初めてだ。
いつもエロかヤんだ発言しかしない。
「体に溜まった魔力を吐き出していたら、気づいたら手足のように自由自在に動く触手になっていた。あれは醜いかもしれんが元は俺の魔力から生まれた俺の分身」
そうなんだ。じゃあ夏に産み落としたから、とかで季節の触手を判別できるのかな。
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