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六、浮気じゃなくて⑥
「……勇者とは魔力を削れ、初めて疲れる相手で興味を持てた。だが、疲れても心は満たされない。違うか?」
「まあ、そうだよね。うん」
魔力を枯渇させたことないローにとって、魔力をガンガンぶつけられる勇者は壊れないおもちゃだったのだろう。
「俺の心も満たし、体も疲れることをしよう」
「……ん?」
「抱くぞ」
ええええー!?
今の前振りは何?
心の弱い部分を見せてくれたと見せかけて、エッチに持ち込むためのテクじゃん!
全然200年恋愛したことない恋愛初心者じゃないじゃん!
「グー……グイード」
気だるげなやる気のない声に、熱が帯びそれだけで甘く響いてくる。
「もう一度聞く。抱くぞ」
20数年、女を喜ばせてきて、テクニシャンって称号をもらって、働かなくても女性を抱いていたら生きていけるって気づいたのに。
俺を求める甘い声に、流される。
ああ、俺は男なのに。
ローを拒否できない。
「グー?」
「お、おう……」
ローの恐ろしく整った顔が近づいてくる。
その死んだ目が、生き生きとする日は来るのかわからない。
けれど、死んでるくせにその目は熱を孕み、その眼差しだけで俺をやけどさせる。
心臓が破裂しそうだと、パニックっていた俺の目を片手で覆い隠すと、噛みつかれるような荒々しいキスが降る。
「んっ ……んんっ」
俺の漏らす声に煽られてローの舌が俺の咥内を蹂躙する。
ねちっこい愛撫みたいに、上顎の裏はもちろん、歯と歯の間、歯の裏、舌をなぞられる。
歯ブラシ。これは舌じゃない。歯ブラシだ。
俺はそう強く自分に言い聞かせたのに。
唇を離した魔王が、覆い隠された手の間から見える。
垂れる唾液を拭いながら、真っ赤に頬を染めていた。
「……声を少しは我慢しないか」
「へ?」
「俺がやさしくできなくなる」
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