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第161話
郁side
みんな笑ってる。
涙で歪む視界の中で、みんなの笑顔が見えてほっとした。
嫌われると思った。
悲しい思いをさせるんじゃないかなって思った。
でも違った。
「ずーっと郁のそば、離れないからね!!」
「大丈夫。俺らはずっといるから」
「ごめん郁…郁っ!」
春は複雑な表情をしながら涙を流してる。
「……なんで、泣いてるの?」
「…安心した」
「安心?」
「ん、そう。ずっと思い出した時、郁が苦しむ姿を見たくなくて…このまま思い出さない方がいいのかなとか思ってた。けど、なんか、いざ思い出したって言われたら……嬉しくて。」
「…少し前に、、頭の中に映像が流れこんできて。……みんなに言わなきゃって思ってたんだけど。これが本当に自分なのか分からなくて。」
「…受け止めきれないのは仕方ないと思う。だって……」
真羽はそこまで言って、俯いた。
「陽太さんたちに言った?」
「ううん」
「今日、土曜日だし。家、帰ってきたら??」
「…でも。」
「春、郁と一緒に行ってこい。」
「あぁ」
すぐにお母さんに話がしたいと電話をすれば、迎えにいくねと言ってくれた。
今日はお父さんも家にいるようだ。
寮の部屋を出るのに足が震える。
春のフードつきパーカーを羽織、キュッと袖を握る。
「…郁、大丈夫。生まれたての子鹿になってるよ!」
真羽が背中を押してくれる。
「うん、大丈夫。」
ドアを開け、外に1歩を踏み出す。
力が抜けそうになるのを支えてくれるのは、いつも春。
「…ふー……大丈夫。行ってきます」
「うん。いってらっしゃい。」
そっと春と手を繋ぐ。
春が僕を引くように歩く。
駐車場までほぼ誰と会うこともなく着くと、既にお母さんが来ていた。
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