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第163話

春side その後、陽太さんが郁と二人で話したいといい、リビングを出ていった。 了さんと二人。 何を言えばと考えていれば了さんの方から声をかけてくれた。 「学校はそうなんだい?」 この質問はどう答えればいいのだろうと思いつつ、思ったことをそのまま伝える。 「え…っと、楽しい?…でも郁がいないと少し寂しいです」 「そうか」 「はい」 「…この一件でまた心を閉ざしてしまわなければいいんだが」 複雑な面持ちでそう話す了さんは、とても悲しそうだった。 「そう、ですね。」 少しの無言の後、話をそらすようにこんな質問を投げかけてきた。 「……もう進路は決めているのかい?」 「一応決めてます。関石大学に」 「そうか…君も医師になるのか?」 『君も』ということは、了さんはあの事を知っているのか。 「そうなりますね。医師だったなんて想像、できないですけどね」 ついこの間まで、まさか自分の父親が医師免許を持っているなんて知らなかった。 医者として働くでもなく、どこにでもいるような会社員だ。 「いつお父さんが医師だと知ったんだい?」 「ここ最近ですね、ははは」 驚かれてもおかしくはない。 「そうか。」 「はい。母が看護師なのは知ってるんですけどね」 「陽太は専門学生時代に君のお母さんとは一緒でね」 「そうらしいですね。その話もこの間初めて聞いて驚きました。」 「そうかそうか。……なぜ医者になろうと?」 「んー、そうですねー。人のために何かすることが好きだし、困ってる人を助けたいから…ですかね?」 「春君らしいね」 「ありがとうございます」 「君は君らしく強くなりなさい。」 「はい!」 了さんの言葉が強く心に響いた。

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