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第165話

春side 了さんと世間話をしつつ二人が戻ってくるのを待つ。 するとカチャと扉の開く音がした。 「…おかえり」 席を立ち腕を広げる。 「ただいまっ!」 腕の中に郁が飛び込んできて、その重みに何となく安心感を覚える。 「……泣いたの?」 「うん、でも大丈夫!」 視界の隅に了さんと陽太さんが部屋を出るのが見えた。 「そっか」 すっきりとした顔をしているから、全て話せたのだろうか。 「春!ありがとう。」 「なんもしてないよ」 「ううん。居てくれるだけで嬉しい」 「うん」 何故か目頭が熱くなるのを感じる。 「春のおかげで今の僕はここに居る。春の支えがなかったら、部屋に籠って、外に出ることもできなかったと思う!」 この感情を郁には絶対に見せないようにしていたのに。 「郁がそんなこと言うから…」 郁の肩口に顔を埋める。 「…え、は、春!?」 「ご、めん。ありがとう」 「ううん」 郁の声も泣きそうだった。 抱きしめあったまま無言になる。 お互いの鼻をすする音が妙に大きく聞こえた。 しばらくしてスッと顔を上げ、触れるだけのキスを落とす。 「…愛してる」 恥ずかしかったがこの言葉を伝えることで俺自身の心がぽかぽかと暖かくなる。 「僕も、春を…愛してます!」 もう一度キスをする。 俺たちは、さらに強くなれる気がした。

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