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第168話

郁side 外に出ると、ふとした瞬間に感じる誰のものかも分からない香水やタバコの匂い。 香りにも敏感になっていて、言うまでもないだろうが、どうしてもダメなものがある。 体がこわばるのだ、匂いだけで。 だから香水売り場には絶対に近寄れないし、どうしても通るなら息を止め、早足で通り過ぎる。 朝起きて少しでも不安ならマスクをしたり。 手元にタオルも何も無ければ隣にいる春の肩口に顔を押し付ける。 今日も例外なくどこかから香水の香りが風によって漂ってくる。校門を出て少し歩いたくらいで、しゃがみこんでしまった。 「大丈夫?」 春からの問いかけに首を横に振る。 「おいで。」 僕の前で同じようにしゃがみ、両手を広げている。 春は制汗剤もあまりつけないし、付けるとしても無香のもの。もともとそういった類のものを体に付けてという行為が苦手なのだといっていた。 春の服からするのは、春と柔軟剤の香りだと思う。 それが一番安心する。 「これで落ち着きそうならいいけどどうする?」 思いっきり春に抱きついて、ゆっくり1度深呼吸する。 春でいっぱいに満たされたら、ここに居るって実感して、早い鼓動がおさまっていく。 「.......大丈夫。」 そう呟けば、春は僕に合わせて動いてくれる。 「ん、帰ろっか」 返事の代わりに手をぎゅっとにぎる。 春の半歩後ろを手を引かれながら歩くのが、最近のお気に入り。 こうしていると誰かに甘えるだけではなく、頼られる存在になりたいと思った。 この思いを何かに活かせないだろうか。 『より多くの人と触れ合って信頼される存在』 今難しくてもいつしか、そうなれるよう。 もう少しでなにか掴めそうな気がする。

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