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第29話
春side
亀山先生とともに山上高校の近くまで行くのに15分もかからなかった。
道が混むこともなく赤信号に引っかかることもなくスムーズにこれたからだ。
目的地に到着すれば、パトカーが何台か停まっていた。車が止まるとすぐ飛び出して玄関にいた警察官に声をかける。
「冬城郁の恋人の室井春です!郁に合わせてください!」
「私は明宮高校で教員をしている亀山です。」
「あなたが室井さんですか?冬城さんがずっとあなたの名を呼んでいました。もうすぐ救急車も来ますが同行しますか?」
「はい!」
「わかりました。冬城さんの姿を見て驚かれると思いますが…」
「わかってます。」
「…先生はどうされますか?」
「いきます」
「こちらへどうぞ。」
そういって案内されたのは一階の玄関から入ってすぐの部屋だった。
もう1つ奥の部屋からは多分奏芽たちであろう声がする。
殴りたい衝動を抑え込み郁のもとへ行く。
…郁は壁に身体を預けて毛布に包まれ青白い顔をしていた。郁が座っている床にはタオルが引いてあり、そのタオルは赤く汚れていた。
俺はその姿を見てすぐに抱きしめた。
「郁!…郁っ……ごめん…郁ごめん…俺が1人にしなければこんな目に合わなかったのに。…ごめんな郁」
怒りと後悔と郁の気持ちを考えるだけで涙が溢れる。
「…は…る…?…そ…に…いるの…?」
目を閉じたまま、か細い声で郁が問いかける。
「俺はここにいるよ。ずっとそばにいるから大丈夫だよ。」
「…ご…んなさい」
「郁が謝る必要なんてない!郁は何も悪くないからな?」
その言葉に安心したのかどうかはわからないが、また意識を失った。
「郁?郁?」
「ショックが大きすぎて気を失っているんでしょう」
そばにいた警察官がそう言った。
「先生、郁のこと見てて……俺を奏芽のもとへ行かせてください」
「…わかりました。」
先生は頷き警察官は俺を案内した。
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